微電流ネクタイ

ショートショート作品
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 僕はあるネクタイを開発した。

 それは電源ボタンつきのネクタイである。

 朝、どれだけ眠くても、このネクタイを締めて電源ボタンを入れれば、体中に微電流が流れて強制的に目が冴える。

 そんな僕の作ったネクタイは空前の大ヒットとなった。

 そして僕は今、ネクタイを更に進化させるために精力的に改良を重ねている。

 最近、仕事へのやる気がすごく高まっていると感じる。

 それは多分……後輩社員の清水さんのおかげだ。

 僕は清水さんに片思いをしているのだが、恋をするようになってから仕事が楽しいと感じられるようになった。

 やはり恋は大事である。

 そんな僕が今取り組んでいるのは、「ネクタイによる業務の自動化」である。

 ネクタイを締めてボタンを押せば、脳に微電流が流れ、いつもその人がこなしているルーティンを自動でこなすことができるのだ。

 脳を休ませたい時などにこのネクタイのボタンを押す。

 すると、勝手に脳がいつもの行動を繰り返してくれるのだ。

 その間は寝ていてもいいし、他のことを考えていてもいい。

 このネクタイが完成したら今の商品よりもっとヒットするに違いない。

 僕はその日、開発途中のネクタイを自分で試してみることにした。

 ネクタイを締め、自動化のボタンを押す。

 自分が自動化している時のログは音声で録っておくことにした。

 脳が微電流を受けて勝手に体が動き出したのを確認した僕は、このネクタイを更に良いものにするにはどうしたらいいのかというテーマで思考を深めていった。

 体を動かしながら脳では別のことを考えられるなんて、なんて素晴らしい発明品なのだろう。

 僕は思考を深く、もっと深くと深めていった。
 


 はっと気がつくと、終業時間になっていた。

 ネクタイの電源を切り、ログを確認してみることにする。

 数時間前、ネクタイの電源を入れた後、僕はいつもと変わらない様子で過ごしていた。

 たまに同僚から何かを質問されても、きちんと受け答えができている。

 更にはいつも行くお店でランチまでちゃんと食べていた。

 うん、いい感じだ!

 だが、就業時間が終わる間際になって、とんでもないことが起こっていた。

 僕は清水さんに話しかけられたのだ。

「あの……先輩。今日夜、時間ありますか」

「どうして?」

「飲みに、でもどうかなって。よろしければ二人で」

「あぁーごめん。今日宅配便届くからダメだ」

「そう、ですか……」

 あぁあ!

 僕は、せっかくの清水さんからのお誘いを、いつもの調子で断ってしまったらしい。

 ログが記録された時間を見ると、五分前だった。

 慌てて辺りを見渡すが、清水さんはすでにいない。

 僕は開発途中のネクタイを放り投げて、清水さんの元へ走り出した。

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