夢見の席

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 小林がこんな点を……?

 あの子は数学が得意なはずなのに。

 最近、できる子のテストの点数が下がっている。

 一体どうしたというのだろう。

 原因を考えていた私は、はっとある理由を思い至った。

 あの席だ。

 一番後ろの右隅。

 小林は今、あの席に座っている。

 この前成績が下がった高橋もそうだ。

 窓際の席で、勉強に集中できないのだろうか?

 小林本人を呼び出して、席のことを聞いてみると、小林はこう答えた。

「すみません、眠くなってしまうんです」

 高橋にも聞いてみると、同じ答えだった。

 そこで私は小林の席を変えることにした。

 あの右隅の席は空白にして、その後ろにずらしたのだ。

 すると、みるみるうちに小林の成績が元に戻った。

 あの席には不思議な作用があるようだ。

 しかしいつまでも穴ぼこの空いたままにしておくわけにもいかないだろう。

 どうにかできないものか。 

 困ったものだ。

「先生?」

 生徒に言われて、私は、はっと教科書から顔を上げた。

 生徒たちが不思議そうに私を見ている。

「あぁ、ごめんごめん。じゃあ次のページを」

 最近、あの席のことを考えすぎて、寝不足なのだ……。

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