「まーちゃん、窓を開けてくれる?」
寝たきりのおばあちゃんに頼まれて、私は窓を開けた。
おばあちゃんはたまにそう言うのだけれど、五分くらいするとすぐに閉めて、と言うのだ。
今日は曇りで、お天気もよくないのにどうして窓を開けるのだろう。
おばあちゃんに理由を尋ねると、おばあちゃんは「お参り風が来るからだよ」と言った。
「なぁに、それ」
「ほら、来た」
窓から風が吹いて、ふわりとおばあちゃんの膝の上のティッシュを持ち上げた。
そしてそのままティッシュは風に運ばれていった。
「あれは神社に運ばれていくんだよ」
「神社に?」
「そう。あの風は、私のようにお参り出来ない人のために巡ってくる風なの。さっきのティッシュにはお賽銭が入っているんだよ」
「へぇ……!」
「まーちゃんも外でお参り風がお供え物やお賽銭を運んでいるのを見るかもしれないけど、絶対に取ったりしちゃだめだよ。昔、男の子がお参り風のお賽銭を取ろうとして、そのまま風に攫われて、賽銭箱の中に消えてしまった、なんてことがあったらしいからね」
私はその話を聞いてなんだか怖くなった。
後日、同じクラスの友達と公園でバトミントンをしていたら、男子の打ったシャトルが空を舞うティッシュに当たった。
ティッシュからはバラバラとお金が落ちてきた。
私はすぐにそれがお参り風であることが分かった。
「すげー、金じゃん。もらっちゃおう」
クラスで一番強い渡辺くんがお金を拾おうとする。
「だめだよ!」
私は思わず大きな声で叫んだ。
「それは神社に持っていかないと」
私はおばあちゃんから聞いたお参り風の話をみんなにした。
もしかしたら信じてもらえないかも、と思ったけど、他にもお参り風のことを知っている子がいて、みんなを一緒に説得してくれた。
私たちは全員でお金を神社に持っていった。
それからそのお金をお賽銭箱に入れて「ごめんなさい」と謝った。
それから私は大人になった。
あの時、ちゃんとお金を神社に持っていったからだろうか、何も悪いことは起こらなかった。
少なくとも私には。
お金を神社のお賽銭箱に入れた次の日、渡辺くんが行方不明になったと町中大騒ぎになった。
結局渡辺くんはいくら探しても見つからなかった。
当時、どうして気が付かなかったのか不思議だったが、大人になった今、ようやく分かった。
渡辺くんは、お参り風から落ちたお金を、こっそり持ち去ったのではないだろうか。
ポケットか何かに入れて。
その結果、渡辺くんは行方不明になってしまった。
彼は一体どこに連れ去られたのだろうか……。
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