私の住む町にはある洞穴がある。
その洞穴の入り口に立ち奥に向かって悩み事を叫ぶと反響が返ってくることがある。
反響があれば悩んでいることを実行に移した方がいいらしい。
逆にまったく反響がなければやらない方がいいのだ。
通っている中学校で若月くんという男の子を好きになった。
告白をするかどうか悩んでいた私は、洞穴の入り口に立ち、中に向かって悩みを叫んだ。
しかし反響は返ってこない。
もう一回。何も返ってこない。
反響するまで叫び続けようと思ったが、何度叫んでみても反響は返ってこなかった。
私は諦めて帰ることにした。
洞穴を出ると小雨が降っていた。
やっぱり、若月くんは誰かと付き合っているのかな。
同じクラスのあの子かな。
小雨が涙を洗い流してくれる。
と、雨が止んだ。
いや、そうではなく、傘が……。
隣に若月くんが立っている。
「どうしたの、今井さん」
若月くんが私の顔を覗き込む。
私はうぅう、とうめくことしかできない。
すると、若月くんが言った。
「あのさ。今井さんって好きなやつ、いる?」
「え?」
「俺と付き合って欲しい。好きなんだ」
突然そんなことを言われ私は混乱した。
「ごめん、実はさっき俺も洞穴にいたんだ。洞穴に相談したい悩みがあって来たんだけど、奥に誰かいないか確かめるために奥まで見に行っていた時に今井さんの声が聞こえたんだ」
かぁっと顔が熱くなる。
じゃあ、さっき私が叫んでいたこと、全部聞かれてたの……!
「ごめん」
若月くんがそう言いながら頭を掻く。
私は若月くんに言った。
「でも……もしさっき言ってくれたことが本当なら、あの洞穴は嘘つきだね」
「いや。その必要はないってことだったんじゃないかな。俺も今井さんに告白するべきか聞こうと思っていたから」
そう言う若月くんの髪が少し濡れている。
傘の外を見ると、もう雨はあがっていた。
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