カチンコ保険というものがあるらしい。
カチンコを一回鳴らすと、その人の人生が記録され始める。
解約するときや、契約者が亡くなって保険が必要なくなった時には、カチンコが二回鳴らされる。
霊安室にやってきて鳴らしていくのだそうだ。
これは、映画の撮影で、撮影を開始する時には一回、そのカットの撮影が終わる時に二回、カチンコを鳴らすことに由来しているらしい。
私はこのカチンコ保険に入るか迷っていた。
保険内容は充実しているが、人生を記録されるというのがどうもなぁ。
でも、家族のためには必要だな、と考えた私は、カチンコ保険に入った。
保険会社の人がやってきて、カチン、とカチンコを一回鳴らす。
「このカチンコは厳重に保管してください」
保険会社の人はそう言い残し、カチンコを置いて帰って行った。
このカチンコを壊したりしたら、やめられなくなるのかな、とちょっと不気味に思う。
それから一週間ほど経ったある日。
道を歩いていたら急に目の前が真っ暗になった。
次に目覚めた時、私はおそらく病院にいた。
おそらく、というのは目が開けられなかったからだ。
聴覚だけがわずかに生きている。
ぼんやりと家族の声が聞こえる。
体は動かない。
家族の泣き声が聞こえる。
それから……カチンコが二回鳴る音。
おい、まってくれ……!
私はまだ生きてるぞ……!
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