ヘッドハンティングから身を守れ!

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 僕は社長から呼び出しを受け、社長室に向かった。一体なんの用事だろう。

 ちょっと緊張しながら社長室に入る。

「お呼びでしょうか」

 僕の呼びかけに対し、こちらに背を向けていた社長が椅子をくるりと反転させてから言った。

「君がヘッドハンティングの対象にされているらしい」

「えぇ、僕がですか!?」

「そうだ。警戒を怠らないように。君を取られるわけにはいかんからな」

 社長はそれだけ言うと、またくるりと椅子を回しこちらに背を向けた。

 社長室を出た僕は、社内備品のヘルメットを被った。

 これでヘッドハンティングから身を守るのである。

 ヘッドハンティングのハンターはいつどこから狙ってくるか分からない。

 ヘッドハンティング用の銃で撃たれたら終わりなのだ。望む望まないに関わらず転職を余儀なくされる。

 僕はまだこの会社で働きたい。

 外出の予定があった僕はヘルメットを被り、周りを十分警戒しながら取引先へ向かった。

 取引先の社長である高橋さんは僕のヘルメットを見て「大変だね」と労いの言葉をかけてくれた。

 高橋さんはベンチャー企業の社長で、年齢も僕と十歳くらいしか変わらない。

 応接間に通された僕はまだヘルメットをしたままだったことを思い出し、「あぁ、うっかりしていました。すみません」と言いながらヘルメットを脱いだ。

 その瞬間、高橋さんが「悪いね」と胸ポケットから銃を取り出し、僕の頭に向けた。

 えっ……!?

「君がずっと欲しいと思っていたんだ。君は有能な人材だから」

 まさか、僕を狙っていたのが高橋さんだったなんて。

 撃たれる。

 引き金を引こうとする高橋さんの指を見ながら僕は「あぁ、この人の会社ならいいかなぁ」なんて思った。

 しかしその瞬間「パァン!」と音がして高橋さんの指が銃から離れた。

 のけぞるようにして体勢を崩した高橋さんが、壁に背をつけながら「やられたよ」とつぶやく。

「大丈夫ですか!?」

「あぁ。ほら、あれ。君のとこの社長だ」

「え?」

 高橋さんが応接間にある窓の向こうを指差した。

 見ると、隣の建物の屋上に何やら人影がある。

 その人影は銃身の長いスナイパーライフルを掲げていた。

 それは確かに社長だった。

 社長は応接間にある天窓の僅かに開いた隙間から高橋さんを狙撃したのだった。
 

 数日後、僕の勤める会社に高橋さんがやってきた。

 高橋さんを迎えた社長がわはは! と上機嫌に笑う。

 僕の席までやってきた高橋さんが「これからよろしく頼むよ」と僕に手を差し出した。

 僕は高橋さんの手を握りながら、彼と一緒に働けることにわくわくしていたのであった。

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