毎年パジャマ

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 年末年始の休みで実家に帰ってきた私は「最近なんだかうまく行ってないなぁ」とかなんとか思いながら居間でゴロゴロしていた。

 大人だから悩みがあって当然かぁなんて、幼いまっさらな頃の記憶が染み付いた実家で思う。

 と、その時唐突に私はあることを思い出した。

 パジャマである。

 小さい頃、実家で着ていたパジャマ。

 あれは不思議なパジャマだった。

 そのパジャマは黄色い陽気な色のパジャマだったのだけれど、「一年に一回だけ着て良い」という制約がついていた。

 一年に一回着ると、その夜は絶対に良い夢が見られるというパジャマだったのだ。

 一度着ると次に良い夢が見られるようになるまで一年間かかる。

 それで、私はいつも七夕にそのパジャマを着ていた。

 理由は確か「くもりの日でも私の夢の中で織姫と彦星が会えるように」という理由だった。

 あぁ、なんて優しい子供!

 自分の見たい夢を見るのではなく、それを他人、しかも実在するかどうかも怪しい人物の為に使うとは……!

 私は幼い頃の自分に感心しつつ、お母さんに「ねぇ、あのパジャマまだある!?」と聞いた。

 お母さんは「あれねぇ」と年末の忙しい時にも関わらずゴソゴソと探してくれた。

 やがてタンスの奥の方からパジャマは見つかった。

 よし、大晦日にはこれを着て寝て、自分のために良い初夢を見よう! と決心した。

 私は今や図々しさも身に付けた大人なのだ。 

 そしてやってきた大晦日、あの黄色いパジャマに身を包んでベッドに入った。

 夢はすぐに始まった。

 私の目の前に富士山がある。

 おぉ、いきなり富士山! 幸先いい!

 私は「一富士二鷹三茄子」のトップバッターの出現に小躍りした。

 だが、この富士山、どこか違和感がある。

 私は走って富士山に近づいてみた。

 すると違和感の正体にすぐ気がついた。

 富士山の形が私の知っているものと違うのだ。

 頂上に白い雪があるその姿は確かに富士山なのだが、なんだか違う。

 富士山にもっと近づいてみると、なんのことはない、それは私の家の近所にある小さな山だった。

 そしてその山を富士山に似せようと近所の人々が雪を撒いているのだった。

 うーむ、偽物の富士山……。

 なんだか微妙だと思っている私の肩に鳥が止まった。

 やった! 鷹!

 だと思ったら、すずめだった。

 すずめ……。

 私がすずめを肩に載せながら歩いていると、近所のおばあちゃんが声をかけてくれた。

「ほれ、これ持っておいき!」

 おばあちゃんがくれたのは茄子みたいな形をしたミニトマトだった。

 私はベッドの上で目を覚ました。

 悪い夢ではなかったけど、なんだか全体的にスケールが小さかったような……。

 そんなことを考えながら、私はごそごそと起き出して居間に向かった。

「あけましておめでと〜」

と言いながら居間の扉を開けると、母が私の姿を見て笑いながらこう言った。

「あはは、なによあんた、そのパジャマつんつるてんじゃない!」

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