親密魔法陣

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 幼い頃、いたずらで床にお絵かきをしていた私は、なんと悪魔を呼び出してしまった。

 適当に書いた図形の羅列が悪魔召喚の図になっていたらしい。

 悪魔は私に言った。

「おまえの願いを叶えられる魔法陣を一つ教えてやる。どんなのがいい?」

 聞かれた私は少し迷ってから言った。

「お友達と仲良くなれるやつ!」

 当時の私は、クラスメイトのミユちゃんともっと仲良くなりたいと思っていたのだ。

 悪魔に魔法陣の書き方を教えてもらった私は、さっそくその効果を試してみることにした。

 次の日、私は学校の校舎にある木の下に魔法陣を書いた。

 それからその辺りに落ちている落ち葉で魔法陣を隠す。

 私は大急ぎで教室に戻り、ミユちゃんの華奢で可愛い耳に口を近づけて言った。

「ミユちゃん、ミユちゃんだけにある秘密を教えてあげるから、木のとこに来て」

 それだけ言うと、私は木の下に戻ってミユちゃんを待った。

 落ち葉で隠した魔法陣に自分の片足を置く。

 これで魔法陣の中にミユちゃんが入れば私たちは仲良くなれる。

 私はワクワクしながらミユちゃんを待った。

 やがてミユちゃんがやってきた。

 だが、ミユちゃんは一人ではなく、友達と一緒だった。

「秘密を教えるって言ったのに、なんで……」

 私は悲しくなってミユちゃんに気づかれる前に走って逃げた。

 どうして?

 ミユちゃんだけに教えてあげるって言ったのに。

 なんで二人で来たの。

 私の書いた魔法陣のせいで、ミユちゃんとあの友達はもっと仲良くなってしまうかもしれない。

 足がもつれて思い切り転んだ。

 近くにいたクラスメイトが「大丈夫?」と慌てながら私を助け起こしてくれる。

 私は惨めで仕方なくて、お礼も言わずにまた走って逃げた。


「あ〜あ、惜しいことをしたなぁ」

 私が独り言のように言うとルームメイトが「何が?」と読んでいた本を閉じてこちらを見た。

「なんで人と仲良くなれる魔法陣なんかにしたんだろ。今の私ならお金をもらえる魔法陣とかにするのに」

「またそれぇ?」

 私の愚痴に慣れたルームメイトが呆れたように笑う。

 大人になった私は親密になるべき人とは魔法陣なんかなくたって自然と仲良くなれることを知ったのだ。

 それを教えてくれたのは、あの日私を「大丈夫?」と助け起こしてくれたクラスメイトだった。

 あの日からずっと優しい彼女は「あ〜ぁ」とまだ言っている私に「コーヒー飲む?」と笑いかけた。

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