連日の激務で心身ともに疲れ果てていた時、同僚がこんなことを言った。
「おまえも”栓”抜いてもらえよ」
「栓……?」
なんでも同僚が言うには、人間には”栓”があるらしい。
ちょうど、風呂の湯船についているあのような栓だ。
その栓を抜くことで、体の中に溜まったあらゆる毒素を抜くことができるのだとか。
しかしその栓は常人には見つけられない。
訓練した人間だけが栓を見つけることができるそうなのだ。
僕は半信半疑ながらも、その栓を抜くことができるというセラピストの元までやってきた。
事前に聞いていたが、セラピストはかなり美人な女性だった。
「まずはお客さまの栓を探していきますね」
そう言ってセラピストさんは僕の頭に何やら棒のようなものを押し当てた。
毛根検査などで見たことがある、あれだ。
セラピストさんによると、人間の栓は頭にあるらしい。
セラピストさんが仔細に僕の頭を調べる。
だが……。
「どうやら栓がないようですね……」
セラピストさんが困っている。
僕は尋ねた。
「栓がない人間もいるのですか?」
「ごく稀にいるようですが……」
セラピストさんはそう言いながら腕組みをして考え込み始めた。
なんだか申し訳ないので、もういいです、と言おうとした瞬間、セラピストさんが「あ!」と手を叩いた。
それから、僕に言った。
「あの、差し支えなければでいいのですが、上着を脱いでいただけますか?」
「え!? あ、は、はい」
僕は少しどぎまぎしてしまいながら、上着を脱いだ。
セラピストさんが「できれば肌着も……」と言う。
僕は上半身裸になった。
するとセラピストさんが「やっぱり」と微笑んだ。
セラピストさんは「失礼します」と言って、僕のお腹あたりをなでた。
「え、え!?」
それからセラピストさんは手先でくるくると何かを巻く仕草をすると「えい!」と掛け声をあげて手を引いた。
途端、僕の体から何かが抜け出ていく。
体がどんどん軽くなっていくような感覚。
それは今まで経験したことのない気持ちの良さだった。
僕の体から毒素らしきものが出ていった後、僕は服を着ながらセラピストさんに尋ねた。
「僕の栓はどうしてあんなところについていたんでしょうか?」
するとセラピストさんはにこりと微笑んで言った。
「きっと、よほど腹に据えかねることがあったのでしょう。お大事に」
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