企画ベイビー

ショートショート作品
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 私は会社のデスクでため息をついた。

 現実を知ってから、まったく仕事にやる気が出ない自分がいる。

 就職活動を経て、念願の広告代理店に就職することができた。

 斬新な企画ばかり発表している会社だった。

 しかし、入社してみて驚いた。

 広告代理店なのに、企画会議がない。

 遂行するべき企画が知らない間に決まっているのだ。

 一体なぜなのか、と不思議に思いながら仕事をこなしていた私だったが、入社五年目にして真実を知らされた。

 この会社の地下には秘密の部屋がある。

 そしてそこには一人の赤ちゃんがいる。

 赤ちゃんの頭脳をスキャンすると、数々の斬新なアイデアが手に入る。

 つまり、この会社の斬新な企画を考えていたのは、その赤ちゃんなのである。

 社員はそのアイデアを遂行するだけだ。

 赤ちゃんは特殊な培養液の中で歳を取らず、いつまでも企画を出し続ける。

 その仕組みがどうなっているのかは、もはや誰も知らない。

 入社する時に、私たちは全員秘密保持の書類を取り交わしているので、この秘密が外部に漏れることは基本的にない。

 しかし、完全に噂は防げぬようで、社外の人間から赤ちゃんの存在について聞かれることもある。

 そんな時は「そう思われるくらいの企画が出せていて光栄です」と答えるように、とマニュアルで設定されている。

 ある日、事件が起きた。

 地下室の赤ちゃんが盗まれたのだ。

 外部からの侵入は不可能なので、おそらく内部の犯行だろう。

 破壊された培養液のガラスケースに血が滴っていた。

 有力な証拠であるため、社員全員の血と照合されたが、誰のものとも一致しなかった。

 その血はおそらく赤ちゃんの血なのではないか、と私は思った。

 結局、赤ちゃんは見つからなかった。

 そうなると企画が出せないので、会社はみるみるうちに廃れていった。

 私は会社をやめ、広告業界から離れた。

 数年後、私はあの会社で働いていた頃の同僚に会った。

 彼はまだ広告業界にいるらしい。

 彼はこの頃台頭し始めた会社について熱く語っていた。

 なんでも、まるで私たちが前にいた会社みたいに斬新な企画ばかりを出すらしい。

 雑誌の記者をしていた私はその会社に興味を持ち、取材を申し込んで訪ねてみた。

 その会社の社長は思ったよりも若い社長で、取材を始めた私にいった。

「そこまで思われて光栄ですな」

 そう微笑む若い社長の顔には特徴的な裂傷があった。

 もしや、と思う。

 もしやその傷は、あの会社の地下室から盗まれる時に出来た傷なのでは……。

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