僕は今日もすし詰め状態の満員電車に辟易とした。
だが、そんな時の為にこれがある。
僕はジャケットを羽織った。
これは空想ジャケットというものである。
ある古着屋で買ったものだ。
このジャケットを着て目を閉じると、いつでも空想の世界に飛べる。
気がつくと僕はバーチャルな戦場に立っていた。
最近ハマっているゲームの影響だろう。
そこで僕は自由自在に動き、飛び回り、軽快に敵を倒していった。
すると僕の目の前にボスが現れた。
ボスは低い声で言った。
「ふふふ、私の名前はサクラミヤマエ。サクラミヤマエ〜」
「ん?」
目を覚ますと、降りるべき駅だった。
僕は慌てて電車を降りた。
あっという間だったけど、今回の空想は楽しかったなぁ。
そんなことを考えながら駅のホームを歩いていると、なんだか違和感を覚えた。
あれ、いつもと逆のホームのような……?
背中を冷たいものが流れる。
時間を確認すると、とんでもない時間になっていた。
どうやら僕は空想に浸りすぎて、終点まで行って帰ってきたところらしい。
一時間も遅刻だ!
僕は駅を飛び出して走った。
信号が切り替わりそうな横断歩道をギリギリ渡りきった、と思ったら、僕は空を飛んだ。
「うわ、なんだこれ!」
空を飛んだ僕はあっという間に会社についた。
自分の席まで走っていると、同僚の村瀬さんがいて、にこっと笑いながら「遅刻ですよ」と微笑んでくれた。
僕もにへら、と笑顔を返す。
と、その時、ビリっと音がして、村瀬さんのブラウスが切り裂かれた。
えぇえ!?
村瀬さんのブラウスは一人で破れていって、とうとう最後の……。
白いヘルメットに白いマスクという姿をした男の人が、僕を見下ろしている。
男の人は言った。
「それだけ笑えれば平気ですね。高そうなジャケットですが、骨が突き破っていたので破りましたよ」
見ると、空想ジャケットがビリビリに破かれている。
「ほ、骨って?」
「あなたは車にはねられたんです」
気が遠くなりそうになりながら、次に気を失うまでに思ったのは、これで会社に遅れた口実ができるかな、というひどく現実的なものだった。
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