お守りダンス

ショートショート作品
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「おまえといると、なんか落ち着かないんだよ。ごめん」

 何度聞いたか分からないそんなセリフでまたフラれた。

 理由を聞くと「いや、本当になんとなくなんだけど、気味が悪いんだよ」との答え。

 これもいつもと同じだ。

 フラれた理由は分かっている。

 私に幽霊が取り付いているからだ。

 今もうなじに鳥肌が立っている。

 何度も除霊を試したけれど、無駄だった。

 インチキ霊媒師に搾取されただけである。

 私はもう騙されるのはこりごりという気持ちで、あるダンスを習いに来た。

「幽霊を追い払うことができるダンス」である。

 いかにも怪しいし、絶対ウソだけど、まぁもしダメでもダイエット効果はあるか……なんて思いながら私はダンススクールの門をくぐった。

 スクールの先生はエネルギッシュな人で「はい、いいわよー! その調子!」などと言われながら踊っていると気分が晴れ晴れとしてくる。

 楽しくスクールに通い続けた私は一ヶ月ほどで除霊ダンスをマスターした。

 それから私は暇さえあれば除霊ダンスを踊った。

 するとどうだろう。

 あれほどしつこかった幽霊の気配がなくなったのである。

 まさか本当に効果があるなんて思っていなかったので、私は飛び上がって喜んだ。

 
 幽霊がいなくなった効果か、新しい恋人もできた。

 本当にあのダンススクールに通ってよかったと思いながら私は新しい恋人との日々を楽しんだ。

 しかし、である。

「ごめん、ちょっと限界で」

 そんな言葉で私はフラれた。

 どうして、と理由を尋ねると彼はこんなことを言った。

「気味が悪いんだよ、なんか」

 いつもと同じセリフ。しかしその後に続く言葉は違っていた。

「この前俺、夜中にふと目を覚ましたんだ。そうしたらおまえが眠りながら猛烈にダンス踊ってたんだよね……。怖くなってさ」

 そんな。

 幽霊は去っていなかったのだ。

 昼間、ダンスを踊っていれば撃退できるけれど、夜にまたやって来るのだろう。

 その幽霊を追い払う為に私は眠りながらダンスを踊っていたらしい。

「悪いけど」

 彼はそう言って私の元を去った。

 そんな彼から「最近どうしてる?」と連絡があった

 しかし連絡は返さない。

 あれから私は努力を重ねてきた。

 そしてその努力が実り、私は世界的なダンス大会で見事優勝したのである。

 優勝インタビューで「どうしてそんなにダンスが上手になったのですか?」と尋ねられた私はこう答えた。

「そうですね……しいていうなら、寝る間も惜しんで練習した結果、ですかね」

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