「うぅ〜ん」
私はそんな唸り声のような声をあげながら肩を回した。
原稿を書かなければならないが、肩が凝りすぎてどうも集中できない。
またマッサージへ行こうか。いや、マッサージに行ってもすぐに凝ってしまうからなぁ。
もっといいところはないかと私は原稿そっちのけでリサーチした。
すると、なんだか面白そうなところを発見した。
どうやらそこでは肩にヘリウムガスを注入できるらしい。
ヘリウムガスとは、風船を浮かせる為に中に入れるあの気体のことで、肩にヘリウムガスを注入すると嘘のように肩が軽くなるというのだ。
私はさっそくその場所にやってきた。
一通り説明を受けてから、肩にヘリウムガスを注入してもらう。
注射針のようなものを肩に刺され、何やら「シュー」という音をさせながら気体が体の中に入ってきた。
「お、おぉ……!」
私は思わずそんな声を漏らした。
いつも文鎮のように重く凝り固まっている肩が、まるで翼でも生えたかのように軽い。
施術を行ってくれた医師が、どうしても肩がまた重くなった時用にと注射針を処方してくれる。
「我慢できなくなった時にだけ注射を行ってください。そしてくれぐれも用量を守ってくださいね。注射をしすぎるとこうなってしまいますから」
医師は私に一枚の写真を見せた。
その写真に映っている男は肩にヘリウムガスを注射しすぎたのか、肩が不自然に膨れ、ぷかぷかと浮かんでしまっていた。
「はは、こりゃ滑稽ですね。気をつけます」
私は嘘みたいに軽くなった肩を軽快に回しながら机に座った。
体の調子が良くなったので原稿も順調に進む……と思ったのだが。
どうも体の調子が良くなっても頭は別のようである。
筆がどうにも重く、私は席を立った。
部屋の中をぐるぐる歩き回るが、まったくアイデアが浮かばない。
「ん? そうだ!」
私は先ほど医者にもらった注射器を取り出した。
この注射器を頭に使えばアイデアが”浮かんで”来るかも知れない。
私はさっそく注射器を頭に刺して、ヘリウムガスを頭に注入した。
「お、おぉ」
まさに予想は大当たりだった。次々にアイデアが浮かんでくる。
私は洪水のように溢れ出てくるアイデアをプロットに起こし、すぐに編集者に送った。
素晴らしいアイデアたちから紡がれたプロットを見て、編集者がなんと言うのか楽しみである。
編集者からはすぐに電話がかかってきた。
「先生、プロット読みました」
「どうだった? 良かっただろう!」
「うーん……」
「な、なんだ!?」
「なんというか……軽いんです。ストーリーが」
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