客寄せパンツ

ショートショート作品
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 俺は脱サラをしてたこ焼き屋を始めた。

 小さな店だが気に入っている。

 売上もまずまずだ。

 だが……一つだけ気がかりなことがあった。

 半年ほどたこ焼き屋を運営してみて分かったのだが、どうも客がたくさんやってくる日とそうではない日とがある。

 天気などが関係しているかもしれないと思い調査を続けてみたが、どうやらそうではないらしい。

 日々売上データとにらめっこしていた俺は、ようやくその原因にたどり着いた。

 パンツだ。

 俺は何枚かのパンツをルーティンで使い回しているが、白の錨マークの付いた青いトランクスを履いている日だけ売上が高いのである。

 このトランクスは言うなれば「客寄せパンダ」ならぬ「客寄せパンツ」だ。

 俺は売上のために毎日この青いトランクスを履きたいと希望した。

 しかしそれを妻は許してくれなかった。

 俺は仕方なく客寄せパンツの連日着用は諦め、普通のパンツを履いている時も客足を伸ばせるように頑張った。

 しかし頑張り過ぎが祟ったのか、俺は過労で倒れてしまった。

 俺が入院している間、店は妻が一人で切り盛りすることになった。

 店を任された妻は最初、かなり苦労しているようだった。

 だが見舞いに訪れた妻はいつも「お店は私が頑張るから、あなたはゆっくり休んで」と言ってくれた。

 弱い所を見せてくれない妻を心配した俺は、近所に住む友達に妻と店の様子を見てきてもらった。

「心配は無用のようだぞ。店は毎日繁盛している」

 病室にやってきた友達はそんな風に報告してくれた。

 妻は俺と違って愛嬌もあるし、妻の方が商売の才覚があったということか……。

 俺は友達に礼を言って、ゆっくり休むことにした。
 

 翌日、見舞いに来てくれた妻に、友達に様子を見に行ってもらったことを告げた。

 すると妻はきょろきょろと落ち着き無くあたりを伺ってから、俺の耳元に顔を近づけてこんなことを言った。

「実は……私のパンツも覚醒したの」

「パンツが……覚醒?」

「前にデパートで買ったやつあるでしょ? あのパンツが覚醒したらしいのよ」

「まさか、そんなことが……」

「ね。私も驚いたわ」

「ん? でも、ちょっと待ってくれ。友達の話じゃ、店は”毎日”繁盛してるって聞いたぞ」

「えぇ」

「まさかおまえ……パンツ洗ってないのか」

「いいえ。洗ってるわ」

 それじゃあ、なぜ……。

「じゃ、仕込みがあるから」

 そう行って帰ろうとする妻。

 俺はその瞬間、一つの可能性に気がついた。

 うちにある客寄せパンツは……二枚。

 しかし妻は俺が何か言う前に「じゃあ明日また来るね」と言って病院を去って行ったのだった。

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