宇宙開拓事業を行っている私は、ある星にやってきた。
その星には異星人が住んでおり、その形や習性は地球人に酷似していた。
文明は地球よりも遅れているようだが、興味深い星である。
しばらくこの星の生物を観察することにした私は、宇宙船から降りてとりあえず温暖な地域で野宿をすることにした。
服を着なくても十分な気候で、私は上半身だけ服を脱ぎ、地面に寝そべった。
朝、目が覚めると腹の上に白線が引かれていた。
なんだこれ?
起き上がって動こうとすると、異星人がやって来て私に槍を突き立てた。
異星人が何やら喚いている言葉の意味を翻訳すると、なんと私の腹の上を走っているのは国境の線らしい。
どうも昨日、このあたりで勃発していた紛争が収まり、国が二つに分かれ、その国境線を引いたらしいのだ。
私は「人の腹の上に国境線を書くな! 引き直してくれ」と翻訳機を通して訴えかけたが、異星人は「一度引いたものは絶対だ」という謎のこだわりを見せた。
なんなんだこの星は!
私がちょっとでも動こうとすると、国境が変わるからじっとしていろと怒られる。
せめてシャツの上に引かれたのならシャツだけ置いて帰れたのに……。
服を脱ぎ、腹を出して寝たことを悔やんだ。
どうにかしなければ、と思った私は異星人に宇宙船から通信器具を持って来てもらった。
使い走りにされた異星人は文句を言っていたが、動けないのだから仕方ない。
私は通信器具を使って本部に連絡を入れた。
「君が国境線に? ははは、面白いな」
「面白くないですよ!」
「それは貴重な体験だぞ。国境になれる人間なんてそうそういない。どうせならしばらく国境でいなさい」
上司はそれだけ言うと通信を切ってしまった。
なんて上司だ……!
迎えにも来てくれないというので、私はここにいるしかなくなってしまった。
異星人たちは国境の私が死んでは困ると思ったのか、食料や水などを運んできてくれた。
ご親切に携帯用トイレ代わりらしい葉っぱなども運んできてくれる。
これでとりあえず生きることはできるが、何しろ動けないのがきつい。
いっそまた戦争が起きて、国境が変わればいいのに、と思った。
待てよ……戦争?
そうだ、いいことを思いついた!
それから私は異星人と積極的にコミュニケーションを取ることにした。
そして国境、つまり私を挟んで睨み合っている別々の国の異星人にそれぞれある言葉を耳打ちした。
それから一ヶ月後。
異星人たちが私のもとにやってきて、すまなそうに言った。
「今まで国境でいてもらってすまないのだが、国境を引き直すことにした。いや、正確にはこの国境はなくすことになった」
やった!
私は「大歓迎だよ!」と答えて国境の線を消してもらった。
晴れて自由の身になった私は宇宙船に乗り込んで星を出た。
やれやれ、大変な目にあった。
それにしても、本部の対応はとんでもない。転職を考えなければ。
あんな状況でも切り抜けられる私ならどんな仕事でもできるだろう。
国境線にされてしまった私は、別々の国の異星人にこう耳打ちしたのだ。
「隣の国のやつがおまえたちを褒めていたぞ」
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