「ホラー好きのおまえにいいものを持ってきたぞ」
友人の中でも奇人中の奇人である友人がそんなことを言った。
「なんだい」
「ほら、これだ」
友人の差し出したそれは、なんというかヘルメットに近い、おかしなものだった。
「なんだこりゃ。頭にかぶるのかい」
「そうだ。それを被って寝てくれたまえ」
「これをしたまま!?」
「そう。もちろん、将来的にはもっと軽量化したり素材を柔らかいものにする予定ではあるが、とりあえずそれで性能は間違いないかテストしたいのだ」
「性能って何」
「おまえは怖いものが好きだろう。怪談、ホラー映画、ホラーゲーム、お化け屋敷。そんな怖いもの大好きなおまえは、もう生半可なものでは満足できなくなってしまった。違うか?」
「まぁ……そうだな。最近は生温いものも多いし」
「そうだろう? そこでだ。俺は君の為にそれを開発したというわけだ」
「はぁ……」
「それをつけて眠ってもらえば、君の頭の中にある”怖さ”の要素を総動員して、世にも恐ろしい夢を見せてくれるというわけだ。自分で作り上げたものなのだからそれは間違いなく怖い」
「ふぅん。でも、今まで見たり聞いたりしたものの寄せ集めなんだろう」
「既存のものでも掛け合わせ次第で面白いものは作れるものさ。とにかくそれをして眠ってみてくれたまえ」
奇人の彼はそれを僕に押し付けて去っていった。
「さて、では寝るか」
僕は例のヘルメットをつけたまま布団に横になった。
ヘルメットが邪魔で中々寝付けなかったが、いつの間にか眠りに落ちた。
真っ暗で何も見えない空間に一人、佇んでいる。
何者かに足を掴まれた僕は、思わず悲鳴をあげた。
映画やゲームではよくあるシチュエーションだが、実際に自分の夢として体験すると非常に怖い。
何者かに引き回された僕は、今度はゾンビの群れの真ん中に投げ込まれた。
異形のゾンビたちに囲まれた僕は必死で逃げた。
逃げた先は廃屋で、ゾンビたちが玄関のドアや窓を叩く音を聞きながら僕は髪の長い四つん這いの女に追いかけまわされた。
「あなた、あなた!」
僕は妻に揺り起こされて目を覚ました。
きっとかなり激しくうなされていたのだろう。
「それで、どうだった」
昨日の今日なのに、さっそくヘルメットの感想を聞きに来た友人に僕は言った。
「あぁ、いい装置だった。夢は本当に怖かった。自分の頭が作り出したものだから当たり前と言えば当たり前だけどな」
「そうか。よし、成功だな」
「あぁ。特にオチがよかったよ」
「オチ?」
「最後に一番怖いものを持ってきたところなんて満点だ」
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