金庫破りの専門家である男がある日本家屋にやってきた。
男は依頼されて古い金庫などを開ける仕事をしていた。
日本家屋にある金庫はかつてこの家の主人だった男のものらしい。
家族によればこれまでも金庫破りを何人か雇ったが、どうしても開かなかったそうだ。
稀代の腕を持つ男だったが、この金庫には苦戦した。
夜になり、男は「すみません、今夜はここに泊めていただけませんか。明日も挑戦してみたいので」と家族に願い出た。
家族はこれを了承し、男のために金庫のある部屋に布団を敷いた。
その夜、男は遅くまで金庫と格闘していたが、深夜になって布団に入った。
じりりという目覚まし時計の音に男は目を覚ました。
昨夜、部屋にあった目覚まし時計を拝借して仕掛けてあったのだ。
男が布団から出て再び金庫に挑もうとすると、なんと金庫が開いてた。
男はそれを見て笑い、独り言を言った。
「そうか、盲点だった」
家族を呼んだ男は言った。
「この金庫は眠り金庫という種類の金庫だったようです。一度眠ってしまうと目を覚ますまで開かないという代物です。鍵穴はダミーなのです。起こす方法は金庫の所有者が決められます。この金庫の場合、どうやらこの目覚ましだったようですね」
男は部屋にあった目覚まし時計を指し示した。
それはどうやら、ここにいる孫娘が買ってやったものだそうだ。
家族が金庫の中を見ると、その中には持ち主の男とその妻とがやりとりをした手紙などが入っていた。
眠っていた二人の男女の時間が動き出したのを見て、男はその場をあとにした。
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