二十三妖の部屋

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 不動産屋で僕は良い部屋を見つけた。

 家賃も手頃で住みやすそうな部屋である。

 しかし不動産屋さんは「その部屋ですか……」と顔をしかめた。

「幽霊ですか?」

「いや、まぁそんなものです……」

「僕、幽霊は平気なのでぜひここでお願いします!」

 そんなわけで僕はこの部屋に住むことになったのだけれど、住んでみて驚いたのである。

 この部屋には幽霊ではなく妖怪が住んでいた。

 座敷わらしがてくてくと歩いていたり、あの、提灯から舌が出るやつがふらふらと浮いていたり。

 そしてこれは何日か住んでみて分かったことだが、この部屋の妖怪は一時間で入れ替わる。

 一時間ごとに違う妖怪が姿を現すのだ。

 まったくおかしな部屋だが、妖怪が住んでいて便利なこともある。

 朝、僕が起きるべき時間になるとあの提灯が舌でべろりと僕の顔を舐めて起こしてくれる。

 座敷わらしが出てくる時間は夕食の時間なので、座敷わらしと一緒にご飯を食べることもできる。

 僕は一人より誰かと一緒にご飯を食べる方が落ち着くのでこれはありがたい。

 だが当然困ったこともあった。

 ぬりかべが夜の十時から玄関の所に居座るので、その時間よりも前か、もしくは二十三時以降に帰らないと部屋に入れないのだ。

 もちろん、ちょっとコンビニに行きたくなっても出ることもできない。

 
 このおかしな部屋について、僕は不動産屋さんに電話で改めて聞いてみることにした。

「面白い部屋ですね」

「その部屋は別名”二十三妖の部屋”と呼ばれていまして。色々な妖怪が出ちゃうんですよ。すみません、本当は事前の説明義務があったので、もしでしたらいつでも退去していただいて構いませんよ」

「あぁ、それは大丈夫です。住まわせていただきます」

 不動産屋さんとの電話を切った後、僕はふと気になった。

 ”二十三妖の部屋”?

 二十三という数字が時間を表しているとして、じゃあ一日のうち一時間、妖怪が出ない時間があるのだろうか。

 僕はこの際だからと全ての妖怪に会ってみることにした。

 起きている時間帯の妖怪には全員会ったことがあったので、休日を利用して夜中まで起きていてみることにした。

 夜中、一時になると雪女が現れた。

 あ、だから朝起きると冷房の設定温度が16度になってるんだな!?

「使い終わったらちゃんと消すのは偉いけど、設定温度は元に戻しておいてよ」

 僕が雪女にそう言うと、雪女はこくりとうなずいた。

 やがて、夜中の二時になった。

 すると雪女が「ひええ!」と悲鳴をあげて去っていった。

 どうしたんだろう、と思っていると、壁からぬーっと幽霊が現れた。

 床や天井、あらゆる場所からたくさんの幽霊が現れて僕の部屋でくつろぎ始める。

 なるほど、丑三つ時だけは妖怪が幽霊を怖がって部屋に出てこないのか。

 まったく、妖怪も幽霊も似たようなもんでしょうよ……。

 僕は馬鹿らしくなったので幽霊たちがくつろぐ部屋で眠りについた。

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