登頂不可能と言われている「たぬき山」という山がある。
その山に登っていると、途中で狸に化かされてしまうのだ。
だからまだ山頂にたどり着いた人間がいないというわけ。
私はそのたぬき山に何度も挑戦している。
今回はコンパスをガムテープで手に固定して登頂に挑んだ。
余計なものを何も見ないように一歩一歩登っていく。
途中、女が一人、倒れていた。
しかし無視をして先に進む。
目印にしようとしていた木の周りにいつの間にか木が増えている。
ダメだ、コンパスだけを信じろ。
しかしそんなコンパスも次第に指し示す方向がグラグラと揺れるようになった。
落ち着け。まっすぐ歩けばいいんだ……!
一歩、また一歩と山を登っていると、山に登っているはずなのにいつの間にか下り坂になっていた。
気にするな。登っているはずなんだ……!
下り坂を下り続け、そして気がつくと……山頂に立っていた。
やった! ついにやったぞ!
私はたぬき山の山頂からの景色を楽しんだ。
と、その時、山頂から見下ろす景色に二つの光る目のようなものを発見した。
まさか、この山は巨大な狸の鼻……!?
「ワッハッハ」という大きな笑い声が聞こえ、その振動で足元が揺れた。
「うわぁ……!」
私は山頂から転げ落ちた。
気がつくと、私は山の麓に広がる森に倒れていた。
たぬき山を見上げる。
私は本当にこの山を登りきったのだろうか。
なんとなく体中が臭い。
この臭い……まさか私は、あの巨大なたぬきに食べられ、そして出るべきところから……?
たぬき山の登頂に成功した人間はもしかたら過去にもいたかもしれないが、ただ言わないだけなのかもしれないなと思いながら、私は家路についた。
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