宙を舞う紅

ショートショート作品
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 今年は夫の実家で年越しをする。

 初めてなので少し緊張する。

 と、夫がおかしなことを言った。

「あの、なんか変なことが起こるかもしれない」

「え? 変なことって?」

「う〜ん、俺は見たことないんだけど、母さんと妹が言ってて」

「へ?」

「まぁ、大丈夫だと思うから」

 どういうことだろう、と不思議に思いつつ、夫の実家にやってきた。

 挨拶などをばたばた済ませ、私はお義母さんに聞いた。

「何か準備、お手伝いしましょうか」

「あぁ、大丈夫なの」

 年越しと言えば食事の準備など色々大変だと思うのだが、宅配でも頼んでいるのだろうか。

 お義母さんが「あっ」と何かに気がついた様子で言った。

「もしかしたら今夜あたりね……」

「え?」

「なんでもない。ないかもしれないもの」

 お義母さんは「ごめん、変なこと言って」と謝った。

 夫といいお義母さんといい、一体なんなのだろうか?

 夜中。

 なんとなく目が覚めた私は布団の中でぼんやりとしていた。

 と、ふらりと何かが宙を舞っている。

 よく見ると、それは口紅だった。

 それも、私の口紅だ。

 え、何が起きてるの!?

 口紅は、まるでそこにいる誰かが引いているような動きをした。

 そして唇型に紅が引かれ、その唇がにっこりと微笑み、唇はふわりと宙を舞って、月へと飛んでいった。

 口紅はいつのまにか畳の上に落ちている。

 起き上がって確認してみると、化粧品の中身が少しずつ減っている。

 あれって、もしかして。

 翌朝、夫に聞くと、夫は「本当に来たんだ」と驚いてから続けた。

「この場所は昔、お姫様が住んでたみたいなんだよ。玄関に行ってみよう」

 夫についていくと、玄関にたくさんのご馳走が置いてあった。

「お礼をしてくれるんだ。」

 ご馳走の中にはお餅が入っていた。

 お餅は月でついたものなのだろうか、かすかに光っているように見えた。

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