肉抜き人間

ショートショート作品
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 秘書課に配属された僕は、先任の高橋先輩から引き継ぎを受けた。

 高橋先輩が言った。

「よし、表の引き継ぎはこれで終わりだね」

「表……?」

 どうやら高橋先輩の話では、表に出してはいけない”裏”の引き継ぎがあるらしい。

 高橋先輩は僕に”シリコン人間”の話をした。

 体の表面だけその人に似せて作り、中身はシリコンを詰めたシリコン人間。

 驚いたのが、シリコン人間の体の表面に本物の人間の皮膚を使っているという点だ。

 なんともグロテスクである。

 シリコン人間は、一定の人間だけ作成を許されているらしい。

 例えば映画のスタントマンや、その他VIPなどだ。

 作るには許可証が必要だし、皮膚の防腐処理専門家による定期検診も受けなければならないらしい。

 そのシリコン人間を社長は作っているらしいのだ。

 金を積めば許可証をもらえるらしい。

 社長室の隠し扉に社長のシリコン人間を隠してある。

 それはスポーツ観戦をする時などに使われているらしい。

 社長が面倒だと思う用事をシリコン人間が代行する、ということなのだそうだ。

 会話などをする必要がなければ外見は社長の姿なので、バレないのだろう。

 高橋先輩は言った。

「後もう一つ。これは重要な引き継ぎで……」

 その時、高橋先輩の携帯に着信があった。

「なんだって!?」

 高橋先輩が顔色を変える。

 どうやら社長が自宅で倒れ、病院に運ばれたらしい。

 先輩と二人病院に向かったが、すでに社長は亡くなっていた。

 高橋先輩が神妙な顔をして言った。

「とりあえず、まだ社員や取引先には知らせないように。各方面に影響が大きいから、慎重に行動しないとね」

 翌日、とりあえず僕は会社に出社し、社長室に向かった。

 すると、なんと社長がデスクに座っていたのである。

「しゃ、社長……!?」

 社長はにこりと笑ってこちらに手をあげる。

 そんなまさか、と思い僕は社長室を出て病院に電話した。

 すると、昨日僕たちに諸々の説明をしてくれた医師が慌てた様子で「今電話しようとしていたんです!」と叫んだ。

「え? どういうことですか」

「昨日亡くなった患者さんなのですが、今朝、遺体から脳みそだけが盗まれた状態で見つかったんです。先ほど警察がやってきて、そちらの高橋さんの行方を探していると……」

 何が起きているのか分からない僕は返事をできなかった。

 じゃあ、先ほど見た社長は……?

「ちょっと、聞いてますか!?」

 電話口で医師が叫ぶ。

 その時、社長室の扉が開いて、中からゆっくりと社長が……。

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