カリスマ○○師

ショートショート作品
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 私の夫はいわゆるカリスマ美容師である。

 私も美容師をしているが、平凡な私などとは違い、彼は美容関係の雑誌のインタビューを受けたり、果てはテレビ出演なども飾るほど人気のある美容師だ。

 第一線で活躍している夫は私の憧れであり、誇りでもあった。

 そんな夫が、ある時覚醒した。

 それも……悪い方にである。

 彼が髪を切ると、どうやってもおかしな髪型になってしまうのだ。

 私はその髪型を見て何かに似ているな、と思った。しかしいくら考えてもそれが何かは分からない。

 確かなのはおしゃれな髪型ではない、という事だ。

 客からはクレームを受け、すっかり意気消沈した夫は仕事を休むことになった。

「仕事は私が頑張るからゆっくり休んで」

 夫にはそう声をかけたが、夫は「あぁ……」と力のない声で答え、ふさぎ込んだ。

 そんな夫を見ても、私は彼の才能を疑っていなかった。

 夫には確実に才能がある。

 その才能が今はちょっとおかしなベクトルに傾いてしまっているだけだろう。

「また切りたくなったら切ればいいよ」

 そんな私の励ましに彼は「あぁ……」とまた力のない声で答えた。

 そんな夫だったが、ある時また覚醒した。

 だが今度の覚醒は美容師としてではなかった。

 夫の覚醒を見て私は、あの時客の髪を見て何かに似ていると思ったが、これだったのか、と納得した。

 私は夫の出ている雑誌を誇らしい気持ちで眺めた。

 雑誌の表紙にはこんな見出しが踊っていた。

「元カリスマ美容師、新星のカリスマ盆栽師として復活」

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