息子が入院した。
軽い風邪だったはずが、こじらせて肺炎を患ってしまったのである。
面会時間が過ぎた後も、私は無理を言って病室に泊まらせてもらった。
とても一人で家に帰る気にはなれなかった。
夜中、はっと目を覚ますと、息子のベッドの上で白衣がゆらゆらと揺れていた。
息子も目を開けて白衣を見ている。
何、これ。幽霊?
息子が白衣を見ながらけらけらと笑う。
誰なの? やめて、息子を連れて行かないで!
はっと目を覚ます。
白衣はもうなくて、息子もベッドの上ですぅすぅと寝息を立てていた。
夢……だったのだろうか。
翌日から、息子の体調がみるみる良くなっていった。
私は担当の看護師さんに昨夜の夢のことを話してみた。
「白衣が浮いていたんです。私はそれを見たんです。きっと助けてくれたんじゃないかって思うのですが……」
私の話を聞いた看護師さんは「何言ってるんですか」と笑った。
あっという間によくなった息子の退院手続きをして、病室を後にした。
息子と一緒に車に乗ろうとした時、看護師さんが走ってきた。
忘れ物でもしていたかな、と思ったのだが、看護師さんはこんなことを言った。
「ごめんなさい。この話を病室ですると、怖がる子もいるから……」
看護師さんによると、この病院には昔、仕事熱心な先生がいたらしい。
その先生は仕事を頑張りすぎて亡くなってしまったそうだ。
看護師さんが先生の話をしていると、息子がこんなことを言った。
「その先生なら、僕会ったよ! 僕のおでこに手を当ててくれて、それがすごく冷たくて気持ちよかったんだ。どうして冷たいのか聞いてみたら、”私は死んでいるからね”って笑ったんだよ」
それを聞いて看護師さんがくすっと笑った。
「先生はいつも適当なことを言うの。いつだったかは女の子のお腹を温めて”私は熱い男だから手が温かいんだよ”って言ったんだって」
そんな話を聞いてみんなで笑った。
やっぱり昨夜の出来事は夢じゃなかったんだ。
病院に戻っていく看護師さんの背中を見つめていると、病院の二階でふと何かが動いたような気がした。
病院の建物を見上げた私は、二階の廊下をふわふわと飛んでいく白衣を見たような気がした。
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