ある殺人鬼の誤算

ショートショート作品
スポンサーリンク

 ある殺人鬼がいた。

 いや、正確には殺人鬼予備軍である。

 その男はある人物を殺そうと計画していた。

 計画は完璧で、あとは実行を待つのみ。

 夜中、男は死体を埋める為の穴を掘りに山へやってきた。

 男はスコップで大きな穴を掘った。

 しかし、なんとその途中で温泉を掘り当ててしまったのである。

「うわー!」

 男は湧き出る温泉のお湯から逃げるようにしてその場を走り去った。

 
 気を取り直し、男は別の山に穴を掘ることにした。

 スコップでひたすら穴を掘っていく。

 しかし……。

「なんだこりゃ!」

 穴の底から金色の光が漏れ出している。

 そこに埋まっていたのは埋蔵金など数千万円の価値があるお宝であった。

 期せずして宝を掘り当ててしまった男はその宝を地元の警察署に届け出て、表彰されてしまった。

 男は再び気を取り直し、今度こそという気持ちでまた別の山で穴を掘った。

「うわぁーーー!」

 男は、今度は死体を掘り当ててしまった。

 それはまだ少女の面影を残す女性の死体だった。

 腐乱しかかったその死体の無念そうな表情を見て、男から毒気が消えていった。

 男は再び警察に連絡をした。

 こんな場所で死体を発見した第一発見者の男は、当初女性殺害の疑いをかけられることになったが、数カ月後、晴れて真犯人が捕まったのである。

 男は地元新聞社のインタビューにこう答えた。

「私は褒められるような人間ではありません。皆さんにはとても言えないような理由であそこを掘ろうとしていただけです。それはとても恥ずかしい理由でした。ですから今は……穴があったら入りたい気持ちです」

コメント

タイトルとURLをコピーしました