お花見神輿

ショートショート作品
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 彼女の実家に遊びにやってきた。

 彼女が「近所にお花見に行こう」というので、彼女について歩く。

 花見客とおぼしき人々が僕らと同じ方面に向かって歩いている。

 子供が随分多いなぁ、と思った。みんなお花見が好きなのかな。

「ここだよ」

 彼女に連れられてやってきたのは河川敷だった。

 沢山の人々が集まっている。

 僕は集まった人々を見て少し違和感を覚えた。

 なんというか、みんなお花見をするにしては服装が地味なのだ。

 ジャージや運動着のような人が多く、これではお花見というよりマラソン大会みたいだな、と思った。

 そう言えば普段スカートを好んで履いている彼女も今日はジーンズのようだが。

 近くに大きな公園があるらしいので、お花見をした後そこで遊ぶのが通例になっているのかもしれない。

 そうやって納得しかけた僕だったが、もっとおかしな点を発見してしまった。

 立ち並んでいる桜の木。そのどれにも花が咲いていないのだ。

 一体どういうことだろう。これじゃ花見なんて出来ないと思うのだが……。

 すべての木の根元にブルーシートがかかっているのも気になる。

「来たわよ」

 突然、彼女が言った。

「え?」

「ほら」

 彼女が指差した先にお神輿が見えた。

 拍手が沸き起こる。

 お神輿の上に桃色の着物を着た女の人が立っていた。

「ミスお花見よ」

「ミスお花見……?」

 お神輿が桜並木を進んでいく。

「あっ」

 ミスお花見の乗ったお神輿が一本の桜の木を通り過ぎた。

 と、その瞬間、桜の木に満開の桜が咲いた。

「すげぇ、まるで花咲じいさんだ」

 沿道に集まった人々からより一層大きな拍手が沸き起こり、その中をお神輿が厳かに進んでいった。

「綺麗だなぁ」

 僕が満開の桜とお神輿に乗ったミスお花見を見ていると「ちょっと!」と彼女に服の袖を引っ張られた。

 嫉妬しているのかと思い「ミスお花見より君のほうが綺麗だよ」と僕が言うと彼女が「何寝ぼけたこといってんの! 今からが本番なのよ!」と叫んだ。

「え」

 彼女が指差した方を見ると、もう一台のお神輿がやってきていた。

 その上に桃色、白、緑色の着物を着た女の子が乗っている。

 先ほどと同じようにお神輿は桜の木の横を通り過ぎた。

 すると、先ほど花が咲いたばかりの木に、今度はお団子がなった。

 桃色、白、緑の三色団子が桜の花の代わりに枝になっている。

 沿道の人々から大きな歓声やピーーーッという指笛が響き渡る。

 一人の屈強な体つきのおじさんがその桜の木を抱え込むようにして言った。

「揺らすぞー!」

 桜の木を取り囲んでいる人々が「おー!」という歓声で答える。

「私たちも行くわよ!」

「え」

 彼女が僕の腕を引っ張ってお団子がなっている桜の木の下まで連れてきた。

 靴を脱いでブルーシートの上に二人で陣取る。

「落とし団子は縁起が悪いって言われているから、死ぬ気で拾って!」

 そんな彼女の指示に答えるより先に、団子が落っこちてきた。

 普通の三色団子は串についているが、この桜の木になった三色団子は一つずつお団子のままで落ちてきた。

 僕はわたわたとなんとか二、三個団子を拾った。

 その間に彼女が見事なステップと手さばきで団子をキャッチしている。

 なるほど、バレー部エースの脚力はここで磨かれたのか……!

 僕の横で団子をキャッチしている彼女の後ろで、子供がキャッチした団子を口に含み、また団子をキャッチしていた。

 す、すげぇ……!

 大人も子供もみんな夢中で団子をキャッチし、歓声を上げている。

 僕はようやくみんなが運動着を着ている理由が分かった。

“花より団子”とはよく言うが、それにしても花を見る時間が短いなと思い、僕は笑った。

「あー、お腹いっぱい」

 そう言って満足そうに笑う彼女と一緒に河川敷の道を歩く。

 一風変わったお花見ではあったけど、楽しかったな。

 同じく満足そうな人々と同じように、僕たちもおしゃべりに花を咲かせながら家まで帰ったのだった。

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