会社の同僚から「良いアルバイトがあるんだけど、やってみない?」と誘われた。
「なに、怪しいアルバイト?」
「怪しくないよ。夜寝る時、夢ってよく見る方?」
「まぁ、けっこう」
「その夢の残りを売るんだよ」
「えぇ?」
「ほら、夢って起きてからもなんとなく覚えていることあるでしょ」
「うん」
「それを売るの。買い取ってくれるところがあるんだ」
「夢の残りって……そんなの買ってどうするんだろう?」
「さぁ。映画や漫画なんかのストーリーを作るのに役立ててるって聞いたことあるけど」
「ふぅん」
「ブレスレットをするだけで簡単にできるから、やってみたら?」
同僚のそんな誘いを受けた私は、アルバイトに申し込んで夢を売ってみることにした。
アルバイト先から送られてきたブレスレッドをつけて眠ると、朝起きて夢を覚えている、というあの感覚がなくなった。
でも覚えていないだけで、きっと夢は見ているのだろうな。
アルバイト先からは、本当にアルバイトという感じの報酬が振り込まれるようになった。
しかし、そのブレスレッドをつけるようになってから、私は日常に違和感を覚えるようになった。
いよいよ違和感が強くなり、私はブレスレッドを外してみた。
あっ。
そういうことだったのか。
私は同僚に会った時、「あのアルバイト、やめた方がいいかもしれないよ」と忠告をした。
「どうして?」
私が理由を話すと、同僚は笑った。
もしかしたら彼女にはそんなもの何もないのかもしれない。
でも私にはある。
私には、まだ諦めていない将来の夢があるのだ。
デザイナーとして独立するという夢が。
その夢をあやうく売り渡すところだった。
そちらの夢のほうが高く売れるんじゃないかな、と思いながら、私はブレスレットをゴミ箱に捨てた。
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