マントの本屋さん

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 小学校からの帰り道を歩いていると、マントの本屋さんが歩いているのを見つけた。

「マントの本屋さーん!」

 私はマントの本屋さんに駆け寄った。

 マントの本屋さんは今日も黒いマントをすっぽりとかぶっていた。

 見た目は完全に怪しい人だけど、変な人ではない。

 この人は本屋さんなのだ。

 マントの本屋さんはマントの中にたくさん本を持っているらしく、本を買いたいと言うとマントの中からいい本を選んでくれる。

 マントの本屋さんは必ず今持っているお小遣いで買える本を紹介してくれる。

「今日はこれかな」

 マントの本屋さんがそう言って取り出したのは冒険小説だった。

「ありがとう!」

 私はマントの本屋さんにお金を払った。

 帰ってから読んでみると、その小説は私の好みにぴったりだった。

 それから年月が経ち、私は町でマントの本屋さんを見かける度に本を買った。

 時には参考書を買ったりもした。マントの本屋さんが、今必要だという参考書に外れはなかった。

 しかしある時を堺にマントの本屋さんを全然見なくなってしまった。

 話によると、高齢の為に本屋さんを続けるのが難しくなってしまったらしい。

 マントの本屋さんの家がどこにあるかを母から聞いた私は家を訪ねてみた。

 するとマントの本屋さんはマントではなく布団にくるまっていた。

「あぁ、みっちゃんかい」

 マントの本屋さんは私を見てそう言うと、一枚のマントを差し出した。あのマントだ。

「君にあげるよ。この町の人では、君がきっと一番ふさわしい」

 それから私は二代目マントの本屋さんとなった。

 マントをすっぽりとかぶって町を歩く。

 すると大人のお姉さんが嬉しそうに駆け寄ってきてくれた。

「本、くださいな」

 お姉さんに言われて私はマントの中を探った。

 先代のマントの本屋さんに使い方を聞いたけれど、「ただその中を探せばいい」としか言わなかった。

 言われたとおりにマントの中をまさぐると、本の手応えがった。

 それはあるベテラン女優のエッセイだった。

 私が本を差し出すと、大人のお姉さんは「わ、この人好きなんだ。ありがとう!」と本を大事そうに抱えて歩き去っていった。

 それから私はまた町を歩いた。

 次に声をかけてくれたのは男の子だった。

 私が男の子のためにマントの中を探ると、いくら探っても本の手応えがなかった。

 これはどうしたことだろう。

 どうしよう、と困ったのだが、私は昔のことを思い出した。

 私が本を買おうとした時もこんなことがあったのだ。

 私は男の子に言った。

「今は本を読むより外で遊んだほうがいいみたいだね」

 私がそう言うと男の子は「そっか!」と元気に返事をして走り去っていった。

 男の子の後ろ姿を見送ってから、私は町をもう一周しようと、マント姿で歩き始めた。

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