当てのない旅に行った時、迷い込んだ山でタヌキに出会った。
タヌキは私を案内するように山の道を進んだ。
もしや迷い込ませる気か、と思ったのだが、私は好奇心からついていくことにした。そういう旅だった。
やがて、目の前に山小屋風のカフェが現れた。
タヌキは姿を消している。
私は店の中に入った。
中はウッド調のセンスの良い内装で、栗色の髪をポニーテールに結いている、すらりとした女性がいた。
「いらっしゃいませ」
女性に笑いかけられ、私は迷い込んだ旨を話した。
すると彼女は、ふもとの村までの行き方を教えてくれた。
女性に礼を言って、ちょうど小腹が空いていた私は、店の自慢だというパンケーキを食べた。
パンケーキは確かに美味しかった。
店を出た私は、女性に言われた通り山道を進み、やがてふもとの村にたどり着いた。
私はその村で宿を取り、翌日、もう一度あのカフェに行ってみることにした。
礼をかねて、というのは言い訳で、もう一度あの栗色の髪をした女性に会いたいと思ったのだ。
しかし、昨日の場所に行っても、店は見つからなかった。
ふらふらと探し続け、ようやくタヌキに化かされたのだと気づいた。
だとしたら、あの女性はタヌキだったわけだ。
しかしおかしなものを食べさせられたわけではないようだ。
店のあった場所には、人間用の調理器具が置いてあった。
旅から帰ってもあのパンケーキの味が忘れられなかった私は、一ヶ月ほど後にまたあの山に行ってみた。
山の中を歩いていると、山菜取りをしている村の人に出会った。
こんなところでどうしたのか、と聞かれたので、私は訳を話した。
すると「化かされたんだね」とその人は笑った。
「そんなにパンケーキを食べたけりゃ、村に美味しいお店があるよ」
あのこじんまりした村にカフェがあるとは思ってなかったので、意外だった。
前に来た時にはなかったように思う。
「最近できたんさ。東京から来たって女の子がお店をやってるんよ」
私はそのお店に行ってみた。
店のドアをあけると、そこには栗色の髪をポニーテールに結いた女性が立っていて……。
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