昔から起きている現象の話をする。
私の目の前に、気がつくとボタンがあるのだ。
絶対なんでもない場所なのに、なぜか押しボタン式のボタンがある。
そのボタンは私にしか見えないようだ。
私は一度もそれを押さなかった。不気味だからだ。
そのボタンは何年かに一度現れる。
ボタンを押したことはないが、気になって仕方がない。
私は心に決めていた。
今度ボタンを見た時は、今度こそ押してみようと。
ある日、病院の待合室にいる時に、その病院の廊下にボタンがあるのを発見した。
どうしよう。
押してみようか……!?
意を決して立ち上がった私は、ボタンに向かって指を伸ばした。
と、その指が他の誰かの指に触れた。
「あ、すみません」
反射的に謝ると、男の人が一人立っていた。
どうやら彼にもこのボタンが見えるらしい。
「じゃあ、どうぞ」
「いやいやあなたこそ」
そんな風に譲り合っていた時、突然私たちの間に初老の男性が割り込んで、ボタンを押した。
押されたボタンはすぅっと消えてしまった。
「恨みっこなしだぜ」
初老の男性はそう言ってにやりと笑った。
初老男性は「やった、ついに押した。これでもうボタンを気にしなくていいんだ。ははは!」と言いながら病院を出て行った。
私の横にいた男性が言った。
「まぁ、仕方ないですね。あの、ところで、よければお茶でも……」
私は突然の誘いにとまどいつつ「えぇ」と返事をした。
彼と一緒に病院を出たところで、道の先から「バン!」と大きな音が聞こえてきた。
人だかりが出来ている。
「どうかしたんですか」
野次馬の一人に聞くと、その人は工事現場を指差しながら言った。
「初老の男性の上に資材が落ちてきたんですよ! あれじゃあ、きっともう……」
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