天空の唐揚げ

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 私は自他共認める美食家である。

 いや、美食家というのはちょっと洒落すぎているかもしれない。

 高級料理からB級グルメ、ジャンクフードまでなんでも食すのだ。

 言うなれば”雑食家”といったところか。

 古今東西様々な料理を食べた私だが、まだお目にかかっていない料理もある。

 それは日本三大美食と言われている料理だ。

 日本三大美食に数えられる料理は以下の三つである。

“鬼火で作るラーメン”

“地獄の釜で煮るカレー”

 そして小麦色の空で作る唐揚げ、別名”天空の唐揚げ”である。

「天空の唐揚げ」は山の頂上で食べられる唐揚げで、唐揚を揚げる為の油に小麦色の空が反射し、衣をつけていないのにカリッと揚がる至高の唐揚げらしい。

 そんな「天空の唐揚げ」を食べに私はある山にやってきた。

 天空の唐揚げを作る職人は山の麓の山小屋に住んでいるとのことだったので、私はその職人を訪ねた。

 山小屋の中から顔を出した職人に「天空の唐揚げを食べたいのですが」と告げると職人は「今日は天気が悪いので明日で。昼過ぎにもう一度来てください」と無愛想に告げた。

 なるほど、小麦色の空を反射させるためにはやはり天気が大事ということか。

 私は一度町へと戻って宿を取った。美味しいものを食べるには時間とお金を惜しまない。それが私のポリシーだった。

 翌日、私は改めて職人の元を訪れた。

 事前に調べたところでは山の天気も安定しそうだとのことだった。

 私が山小屋に着くと職人はすでに山男然とした格好をして私を待っていた。

「では」

と言って山を登り始める職人についていく。

 職人は無口でほとんどしゃべらなかった。

 料理人には意外と弁舌家も多いのだが、この職人は寡黙なタイプのようだ。

 二時間ほど山登りをしてたどり着いた場所は、山の中腹にある岩場だった。

「ここです」

 職人は愛想のない声でそう言うと、荷物を降ろし、調理道具を広げ始めた。

 噂では「山の頂上で揚げる」とのことだったが、どうも違うらしい。

 岩場の先に広がる美しい景色を眺めていると、太陽がまもなく夕日になりそうな色で輝いていた。

 小麦色の空が反射する油で揚げる幻の唐揚げ。

 それはどんな味なのだろうと想像しながら、職人の手元を観察した。

 職人は、すでに下味をつけてあるらしい鶏肉を取り出すと、衣につけて油で揚げ始めた。

 こ、これは……!?

 ……普通の唐揚げでは?

 噂では「衣をつけていないのにカリッと揚がる」とのことだったのだが……。

 そんな事を考えているうちに唐揚げが揚がった。

「どうぞ」

 差し出された唐揚げを、一口食べる。

 うん、美味しい!

 唐揚げは、正直味付けや肉の味は普通だったが、普通の最上級といった味だった。

「とっても美味しいです」

 私が正直な感想を伝えると、職人がちょっとだけ柔らかい口調で言った。

「山の上は標高が高いので、油の沸点が低くなるんです。だから地上で揚げたものと味の違いが出るんですよ」

 なるほど、と納得しながら、私は日本三大美食の正体を知った。

“天空の唐揚げ”の噂は、ただの噂だったらしい。

 その唐揚げは期待したほど特別なものではなかったが、でも、すごく美味しかった。

 それは天候を理由に一日お預けをされたこと、山登りのおかげで限界まで空いたお腹、そしてこの岩場から見える景色が唯一無二の調味料になったからだった。

 噂とは違うが、この唐揚げが最上の唐揚げの一つであることは間違いない。

 次々に職人が揚げる唐揚げを口にすると、カリッという音が山に反響した。

 飽きるほど唐揚げを食べた私は、日が暮れる前に職人と一緒に山を降りた。

 
 山小屋に着き、「本当に美味しかったです」と改めて職人にお礼を言った。

 すると無口な職人は「よければ別のコースもまたどうぞ」と言いながらチラシをくれた。

 チラシには、山男然とした職人が書いたとは信じられないような丸っこく可愛い文字でこう書いてあった。

☆ここで食べると美味しいよ☆シリーズ

在りし日のあの味をもう一度。
「夜中にガスコンロで作るインスタントラーメン」コース(キャンプ道具一式貸します)

適当なのに美味しいんだ!
「バカみたいに大きい寸胴で作るカレー」コース(10人前後でお越しください)

 私はそのチラシを見て、改めて日本三大美食の噂のことを思い出した。

“鬼火で作るラーメン”

“地獄の釜で煮るカレー”

 どれも噂の出どころは同じであり、噂に尾ひれがついた結果だったようだ。

 噂とは違った料理が出てくるであろうことは間違いないが、私はまた必ずこの職人の元を訪れようと思った。

 どの料理も絶対に美味しいに違いないからだ。

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