お買い物エプロン

ショートショート作品
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 電車を降りた私は、深呼吸をして懐かしい故郷の空気を胸いっぱい吸い込んだ。

 駅から実家への道をわざとゆっくり歩く。東京にいる時はこんな歩き方はできない。帰省は歩き方も変える。

 気持ちのいい空を眺めながら歩いていると、見覚えのある水玉模様のエプロンがひらひら舞っているのを見つけた。

「あ、お母さんのエプロン!」

 私は嬉しくなってエプロンを追いかけて走った。

 あれは”お買い物エプロン”だ。

 お買い物エプロンは炊事担当者の心強い味方である。

 お買い物エプロンのポケットにがま口とメモを入れて買い物を頼むと、エプロンは窓や玄関からひらひらと空を飛んでお買い物に出かけていく。

 そして八百屋さんや魚屋さんでお買い物をして帰ってくるのだ。

 帰りも空を飛ぶからあまり重いものは買えないけれど、ちょっとした買い物にはたいへん役立つのである。

 お母さんのエプロンを追いかけていくと、八百屋さんについた。

 八百屋のおじさんが私に気がつくと「あ、結衣ちゃん!」と嬉しそうに言った。

「おじさん、こんにちは」

「ちょうどよかったよぉ結衣ちゃん。今お母さんのエプロンが来たんだけどね、重すぎてエプロンじゃ運べないんだよ。お母さん、たまにやるんだよなぁ。それでおっちゃんが配達する羽目になるんだよ。しかもちょっとお金足りないし!」

 そう嘆くおじさんに私は「ははは、ごめんごめん」と言って足りない分のお金を渡し、お母さんのエプロンを受け取った。

 どれどれ、何を買ったのかなとビニール袋を見てみると、じゃがいもと人参、玉ねぎが入っていた。

 やった! 今日は”おバカカレー”だ!

 普通の食材の他に、余っている食材はなんでも入れるから”おバカカレー”。

 でもいつも肝心のじゃがいもや人参、玉ねぎを買い忘れるのがお母さんだ。

 私は八百屋のおじさんにお礼を言って家までの道を歩き始めた。

 懐かしい道を食材の詰まったビニール袋を振り回しながら帰ると、早くもお腹が鳴った。

「ただいまー」

 玄関でそう声をかけると、奥からお母さんがやってきて「あら、エプロンより先に結衣が帰ってきた」と笑った。

「へへへ、今日のメニュー当てよっか」

 ビニール袋を指差しながら言うと、背後から「おーい!」と声がして私は振り返った。

 見ると、八百屋のおじさんがお買い物エプロンを持って走ってくる。

 しまった、八百屋を出る時に置いてきちゃったんだ。

「親子揃ってそそっかしいんだからなぁ、まったく」

 呆れながら笑う八百屋のおじさんからエプロンを受け取りながら、私はお母さんと一緒に笑った。

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