ある日、山の奥深くを歩いていると、たたたっと子供が目の前を通り過ぎた。
なんでこんなところに子供が、と思っていると、いつの間にか目の前に村が出現していた。
ありゃ、これはなんだ。
恐る恐る村に入ってみると、そこに河童がいた。
「か、河童!?」
私の声に振り向いた河童の後ろに、小豆洗いもいる。
見ると、そこかしこに妖怪がいた。
この村は、妖怪の村だった。
「うわー!」
思わず叫び声を上げた私の背後に、頭の形が特徴的なぬらりひょんが立っていた。
ぬらりひょんは私に言った。
「どうか騒がないでくだされ。ここは妖怪の集落。住むところのなくなった妖怪が集まっている場所なのです」
「妖怪の……集落?」
「昔、ある陰陽師の方が”ぱられるわーるど”を作ってくださり、そこに私たちは村を作りました。ぱられるわーるどの中ならば人間にも見つからないというわけです」
なるほど、言われてみれば村の中には日本からはもう失われてしまったような豊かな自然が残っていた。
「しかし、結界が弱まってきているのです。だからあなたのような人が迷い込んだのでしょう。お願いです。そっとしておいてください」
私はぬらりひょんの話を聞いて、こう答えた。
「よろしい、私がなんとかしましょう」
「えぇ?」
不思議そうな顔をしているぬらりひょんに私は言った。
私は今日、いつの間にかこの山に迷い込んでいた。
それは、何かに導かれるような体験であった。
昔、ある話を聞いたことがある。
私の先祖が陰陽師として働いている時に妖怪を助けたという話だ。
家にある古い蔵から見つかった巻物にそのことが書いてあったのだ。
そして巻物には「結界弱まりし時、我が子孫を遣わす」という添え書きがされていた。
だから私がここに来たのは必然なのではないか、と。
その証拠に、今日、私はなぜかその巻物を持っているのだ。
「おぉ、おぉ。あなた様が。言われてみればあの方の面影がありまする」
「なんとか結界を張り直してみます」
私は巻物を広げながら、見様見真似で結界を張った。
もちろん、私は今、陰陽師の仕事なんかしていない。
私に本当にそのような力があるのかと不安になりながら、巻物に書かれた手順に沿ってなんとか結界を形づくっていく。
そして……結界はなんとか完成した。
きっと先祖のものよりは粗末な出来だろうが、これでもなんとか妖怪たちを守れるだろう。
妖怪たちが集まってきて、ぬらりひょんが代表して言った。
「おぉ、おぉ……。本当にありがとうございました」
「いいえ。それでは、私はこれで。ご達者で」
私はそう言ってから結界の外に出た。
次に振り返った時には、確かにそこにあったはずの村が消え失せていた。
おそらくもう、私であっても足を踏み入れることはできないだろう。
書物はまたしまっておいて、結界が弱まった時に私の子孫がここを訪れるように書き添えて置こう。
あの山から帰ってきて一週間後、私のもとに何やら宅配便が届いた。
宅配便はいやに冷たい。
差出人の住所を見てみると、住所はあの山になっていた。
開けてみる。
すると、中に色々なものが入っていた。
きっと村の名産なのだろう、ぬらりひょんの作った茶葉、小豆洗いの小豆、河童のきゅうりなどなど。
垢舐め印の垢すりなんてものも入っていた。
ははぁ、すると箱が冷たかったのは、雪女が冷凍してよこしたからだな。
箱の底に、ごろりと大きな石が入っていた。
なんだこりゃ、ぬりかべのかけらだろうか、なんて思いながら石を持ち上げると、その影からさっと何かが飛び出した。
「うわ!?」
中から現れたのは……あの山で最初に会った座敷わらしだった。
座敷わらしはぶるぶると震え「あーちべたいちべたい」と言いながらストーブに張り付いた。
やれやれ、おかしな同居人ができてしまったようだ。
まぁでも、座敷わらしは幸福を運んでくるというし、ありがたいかもしれぬ。
「菓子でも食うか、わらし」
私がそう言うと、座敷わらしは歯をガチガチ鳴らしながらこくこくとうなずいた。
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