ジャックという男がいた。
彼は特異体質だった。
このジャックという男、死なないのである。
焼こうが切り刻まれようが、絶対に生き返るのだ。
彼はその特異体質について公言し、自分の体を様々な分野で役立てようと考えた。
例えば、薬の治験であったり、ロケットの発射実験であったり。
ジャックであれば、もし何かの不具合で死んでしまっても、すぐに生き返るのである。
倫理的にどうなのかという議論は絶えなかったが、当の本人がそれをよしとしているので大きな問題には発展しなかった。
ジャックは世界的に有名な男であった。
ある時、ある博士がジャックを誘拐した。
ジャックがなぜ死なないのか、その秘密を解き明かし、不老不死の力を得ようと考えたのである。
博士はジャックを監禁し、そして殺害した。
博士はジャックを解剖してその体に眠る秘密を解き明かそうとした。
しかし解剖をしてみても、ジャックの体は普通の人間と変わらない構成になっており、ジャックの謎が解き明かされることはなかった。
博士は、それならばジャックが生き返る瞬間を捉えようと、ジャックを監禁した部屋に監視カメラを設置した。
その上でジャックを殺害した博士だったが、監視カメラの映像を確認しても、ジャックが全然生き返らない。
まさか、と博士はある仮説を立てた。
ジャックは誰かに見られていると復活しないのでは。
博士のその推論は正しい。
ジャックは誰にも見られていない状況で初めて生き返ることができるのだ。
そのことに気づいた博士は、思い通りにならない腹いせに、ジャックをカメラで撮影し続けた。
「ずっとそのままでいろ!」
そんな捨て台詞を吐いた博士が亡くなった後も、カメラはジャックの死体を撮影し続けた。
博士の研究所には自家発電装置があったので、いつまでもいつまでもカメラはジャックを撮影し続け、ジャックが復活することはなかった。
そして、長い、本当に長い時間が過ぎて。
二人の男が博士の研究所にやってきた。
そして部屋に監禁されて死んでいるジャックを見つけた。
「いたましいことだ」
二人はそう言うとジャックの死体を研究所の外へ運び出した。
「せめて燃やしてやろう」
一人がそう言ってジャックにガソリンをかけ始める。
「燃料がもったいないですよ」
もう一人の男が抗議するが「いいんだ。死者の弔いには必要だ」とガソリンはかけられ、そして火がつけられた。
そこで二人の無線に連絡が入った。
二人は一瞬その場を離れた。
そして彼らが戻ってきた時、ジャックは復活していた。
「こんにちは」
そう挨拶するジャックを見て二人の男は驚いた。
「おまえは一体!?」
「ご存知ないですか?」
二人の男はかぶりを振った。
ジャックが博士の研究所に閉じ込められてから本当に長い時間が過ぎていたので、いまやジャックを知る人間はいないのである。
ジャックは自分の特異体質のことを説明した。
「僕は死なないんです」
すると男の内一人が、ふっ、と笑ってから言った。
「今じゃ死ねるやつの方が珍しい。ほら、あれを見てみろ」
男はそう言って研究所から伸びる道の先を指し示した。
そこには人間が立っていた。
しかしその人間は、まるで意思が存在しないかのようにふらふらと歩いている。
「あれはいわゆるゾンビというやつだ。昔はリビングデッドなんて呼び方もしていたかな」
もうひとりの男が銃でゾンビの頭を撃ち抜いた。
ジャックは、今まで自分が生きていた世界とは大きく世界が変わっていることを理解した。
「僕になにかできませんか」
「……そうだな。避難所の皿洗いくらいならできるかもな。ついてこい」
ジャックは男たち二人の後について歩き始めた。
この世界にあふれるゾンビたちが、あの博士の研究の悪しき副産物であることは、まだ誰も知らない。
そしてジャックの体に眠る神秘の力がゾンビの恐怖から人類を救う光となるのは、まだ少し先の話である。
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