コゲの鈴

ショートショート作品
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 中学生くらいの頃から「どこどこでキミを見たよ」と言われることが増えた。

 塀の上にいた。

 家と家の隙間に立っていてびっくりした。

 屋根の上にいて驚いた。

 などなど。

 一体どういうことだろうと思っていると、僕を見たという人たちがみんな揃って「鈴の音がして振り返ったらいた」と話していることが分かった。

 鈴の音……?

 もしかして、コゲ?

 我が家の飼い猫である焦げ茶色のコゲ。

 まさかコゲが僕の真似をしているのかな。

 お母さんにその話をしてみると「え〜まさか」と本気にしていなかった。

 けれど、次第に僕以外の家族の目撃情報も増えたのである。

 家族みんなで「本当にコゲが?」なんて話をしていた。

 その何年後かにおばあちゃんが亡くなって、それから頻繁におばあちゃんの霊が我が家に出るようになった。

 チリン、と鈴の音が鳴ったなと思ったら、おばあちゃんが縁側で日向ぼっこをしていたりするのだ。

 コゲがおばあちゃんのふりをして遊んでいるらしい。

 そしてコゲはたまに他の家族の誰かになって出かけていくのだ。

 大学進学を機に僕はコゲのいる実家を出て一人暮らしを始めた。

 コゲに会えない日々は寂しかったけれど、僕が家からいなくなってから、コゲはたまに僕の姿を家族に見せたりしていたらしい。
 

 そして大学を卒業し、社会人として働き始めた僕は久しぶりに実家に帰った。

 最寄りの駅からタクシーで家に帰る。

 玄関を開けようと思ったら、二階にある僕の部屋のベランダにコゲが座っているのが見えた。

「コゲ」と声をかけて家に入る。

 おかえり、と声をかけてくれたお母さんに「二階にコゲがいたよ」と伝えた。

「あら。あなたが帰ってくる時、いつもそこでお出迎えしてたもんね」

「うん」

 コゲは三年前に亡くなった。

 コゲがいなくなって、僕たちはすごく泣いたけど、次の日からすぐにコゲが見えるようになった。

 だから僕らは寂しくなかったのだ。

 コゲが見えたところには、いつも鈴のついたコゲの首輪が落ちていた。

 二階に上がってベランダに向かう。

 やっぱりそこにコゲの首輪が落ちている。

 僕はコゲの首輪を手にとって、コゲの定位置であるこたつの横に置いてやったのだった。

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