読書による視点

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 小さい頃、読書好きで四六時中本を読んでいるおじさんに、

「どうして本を読むの?」

と聞いてみたことがある。

 するとおじさんはこう答えた。

「面白いからだよ。あとは、そうだな。視点が高くなる気がするからかなぁ」

「鳥みたいに?」

「ははは、そうだね」

 おじさんからそんな話を聞いた私は、本をたくさん読んだ。

 すると不思議なことが起こるようになった。

 本を読んでから目をつむると、そこにぼんやりと風景が浮かぶのだけれど、その視点が私の身長より少し高くなっているのだ。

 本を一冊読むと、その分だけ高くなる。

 私はそれが面白くてどんどん本を読んだ。

 いつしか大人になり、私のまぶたの裏の視点はとても高くなっていた。

 いまや自分の国だけではなく、もっと遠くにある国まで見えるようになっている。

 雲を越え、視点がどこまでも高くなっていく。

 と、ある時、目の前に飛行機が迫ってきたことがあった。

 危ない! と思った時には、私の視点は飛行機の中をするりとくぐり抜けていた。

 その時、飛行機の中の構造までが丸見えになった。

 飛行機の仕組みに関する本を読んだからかな。

 そんな面白い体験をした私はまた読書にのめり込んだ。

 一冊ずつ一冊ずつ視点が高くなっていき、ついに私の視点は成層圏を越え、宇宙に飛び出した。

 ここは静かだ。

 その頃には仕事を引退していた私にはゆっくりと本を読む時間があった。

 宇宙の向こうには何があるのだろう、と思いながら私は新しい本のページを開いた。

***

 ある遠くの土地で。

 科学者二人がしきりに首をかしげている。

 目の前にはAIを搭載したコンピューターが置かれていた。

 科学者たちはこのAIに機械学習の一環として大量に本を読ませている。

 しかし、ある時、AIが読了した結果を現す”result”というサインを出した後、よく分からない文章を打ち始めたのだ。

 科学者たちは「なんだこれ?」と不思議がった。

 AIがはじき出した文字、それが異星の言葉で、異星人の存在を示唆していることが分かるのは、まだ少し先の話である。

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