私の住む町は海沿いにある。
そしてこの町にはある有名な神社がある。
その神社は海岸からほど近い場所にある小島にあって、海岸から島までは橋がかけられており、参拝客は歩いてその神社に行くことができる。
私はその橋に何か違和感のようなものを覚えていた。
幼い頃から何回も見ているその島の神社。それがなんだか、だんだん遠くなっているような気がするのだ。
私は町の役場に就職し、「道路維持課」という部署に配属になった。
この課では町のあらゆる交通に関する業務を行う。
その一環として、私はあの神社への橋の距離を測ってみることにした。
結果、橋は記録に残っている長さより十センチも長いことが分かった。
やっぱりそうか。
私はその結果を上司に報告した。
しかし上司は「そんなの誤差だろ」とまともに取り合ってくれない。
一年後、私はまた同じように橋の長さを測ってみた。
すると、今度はさらに一センチ長くなっている。
やっぱり、おかしい。
橋の上で考え込んでいると、足元に何か違和感を覚えた。
なんだろう、と思い、膝をついて橋に耳を当ててみる。
すると、なんと橋の中からドクン、ドクン、と心臓が脈打っているような音が聞こえてきた。
何が起きているんだ?
その瞬間、橋が少し高くなったような気がした。
いや、違う。
私が橋の中に取り込まれているのだ。
「誰か……!」
私は声をあげたが、ものすごい力で橋の中に吸い込まれる。
やがて暗闇の世界が目の前に現れた。
***
ここは町の道路維持課である。
そこに一人の高齢の女性がやってきた。
女性は言った。
「あのぉ、あの神社への架け橋がね、年々長くなっているような気がするんですけど」
役場の職員はそんな女性の訴えに「はぁ……」と気の抜けた返事を返した。
女性はなおも訴えかける。
「ほら、これが私が若い頃の橋の写真で、これが今の写真。絶対に長くなっているでしょう?」
「う〜ん。まぁ、確かに……。一応、調べてみます」
役場の職員は女性から聞いた話を上司に報告した。
すると上司は何かを思い出すように唸ってから言った。
「そういえば、何年か前にもそんなこと言っているやつがいたなぁ。突然、行方不明になっちまったけど……」
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