太鼓餅演奏大会

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 今日は高校最後のクラス行事「太鼓餅演奏大会」の当日である。

「太鼓餅演奏大会」とはその名の通り太鼓のように膨らんだ餅を叩いて演奏する文化系の行事である。

 私は今年高校三年生なのでこれが最後の太鼓餅演奏大会だ。

 会場にはいくつもの杵と臼が用意され、私たちは杵と臼そしてもち米と蒸し器を使って餅をついた。

 何回も何回も餅をつき、最終的に巨大な餅を作り上げる。

 クラス最後の行事とあって、みんな真剣だ。

 いつもはみんなの輪からちょっと離れた場所にいる小柳くんも参加してくれていた。

 昨日、私は小柳くんに「一緒に頑張ろうね」と声をかけたのだった。

 みんなで一生懸命ついたので、無事に巨大な餅は完成した。

 だが、問題はここからである。

 これからその餅を巨大な七輪で焼くのだが、餅は通常の餅より大きいからこそ膨らまないこともあるのだ。

 クラスみんなで固唾を呑んで餅を見守る。

 餅はなかなか膨らまなかった。

 ダメか……。

 クラス中にそんな落胆の雰囲気が流れた時、ふいに餅がぷくっと小さく膨らんだ。

 わぁっという歓声を受けて餅はみるみるうちに巨大な焼き餅になった。

 私たちは全員でバチを持って餅を囲んだ。

「せぇのぉ!」

 クラス委員の高橋くんの掛け声に合わせてバチを振るう。

 バチで叩かれた餅は小気味良い音を出した。

 やった……!

 引き続き力を入れすぎないように慎重に餅を叩く。

 力みすぎると餅が破れてしまうからだ。

 私はみんなと一緒に餅を叩きながら、これまでの高校生活を思い出していた。

 卒業しても友達でいようねとみんなと話しているけれど、それでも卒業したら今とは少し違ってしまうことは分かっている。

 中学校の時がそうだったからだ。

 それでも、その先の出会いを大切にしたいし、みんなともずっと友達でいたい。

 そんなことを考えていたら、ついバチに力がこもってしまった。

 その瞬間、餅はプシュッという気の抜けた音を出して破れ、しおれてしまった。

「あぁ……」

 みんなからため息にも似た声が漏れる。

 太鼓餅演奏大会は餅の膨らみ方などの他に演奏も採点対象となる。

 私たちのクラスの演奏は……私のせいで途中で終わってしまった。

 結果、クラスの順位は二位だった。

 しぼんでしまった餅をみんなで学校の体育館に運んだ。

 大会でついた餅はみんなで食べるのが習わしである。

 巨大なお餅をちぎって食べているみんなの輪に、私は入れなかった。

 私のせいで、二位になってしまった。

 演奏が途中で終わっても二位ということは、演奏がきちんとできていればきっと一位だったに違いない。

 私がそんなことを考えていると、餅にきなこを載せた小柳くんがやってきた。

「隣、いい?」

 そんな風に聞かれて、私は黙って頷いた。

「……俺さ、初めて楽しかったんだ」

「え?」

「ほら、俺ってあんまり人付き合いうまくないから。いつもこういう行事って適当に流しちゃうんだけど、でも、今日は楽しかったんだ。みんなで頑張れるのって楽しいんだって思えてさ。昨日、声をかけてくれた藤野さんのおかげ」

「……でも」

「だからさ、俺、力が入っちゃって。それで餅、割っちゃった」

 小柳くんがそう言ってきなこ餅を頬張る。

「そんな優しいことを言わないでよ。割ったのは、私だよ」

 こらえていたものが溢れ出して、私は小柳くんの前で泣いてしまった。

 私たちの様子に気づいたクラスメイトのみんながやってくる。

「おい小柳、藤野さんを泣かすなよ!」

「い、いや、俺じゃないって」

「違うの、小柳くんのせいじゃないの。私が、私がみんなのお餅を割っちゃったから。ごめんなさい……」

 私はそう言ってみんなに謝った。

 するとみんなは、口々にこんなことを言ってくれた。

「一位取るとさ、写真撮影とかですぐに餅食べらんないんでしょ?」

「そうそう。カピカピになっちゃって食べられないんだって」

「だったら二位が一番いいよなぁ」

「うん。餅は焼いてすぐ食べた方が美味しいし」

 みんなの優しい言葉に余計涙が溢れてきた。

 それから私は小柳くんや他のみんなと一緒に「美味しい美味しい」と言い合いながらひたすらお餅を食べた。

 みんなでついた最後のお餅はびっくりするくらい美味しかったのだ。

 しばらくしてから担任の後藤先生がやってきた。

 後藤先生は私たちの様子を見てびっくりし、それから怒った。

「コラ! ついたお餅は後援会の皆さんにも配るって言ったでしょ!」

 私たちは調子に乗って餅を全部食べてしまったのである。

 体育館の床にねそべり、餅のように膨らんだお腹をさすりながら、私たちはみんなで「ごめんなさい」と謝った。

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