人魂瞑想法

ショートショート作品
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 最近、なんだかよく眠れない。

 自席であくびをしている私に、同僚の早紀が言った。

「疲れてるみたいだね。”瞑想”おすすめだよ」

「瞑想〜?」

「そうそう。瞑想ってさ、つまり頭を空っぽにする訓練なんだけど、瞑想すると頭の中がすっきり整理されて夜もよく眠れるんだ〜」

「へぇ」

「最近、私、”人魂瞑想法”っていうのをやっててさ」

「人魂!? なにそれ」

「瞑想って環境づくりも大事でね。普通、間接照明とか使って部屋を落ち着いた雰囲気にするんだけど、その代わりに人魂に来てもらうの」

「来てもらう!?」

「そう。人魂の光ってね、なんていうか科学的な明かりじゃなくて、すごくいいのよ〜。本当におすすめだから、騙されたと思ってやってみな」

 早紀にそう言われて私は、一度だけその人魂瞑想法をやってみることにした。

 ”人魂派遣サービス”なるものを調べてみる。

 聞く所によると、人魂はキャンプなどにも派遣されるらしい。

 焚き火の代わり、というところだろうか。

 世の中には色々なサービスがあるものだ。

 私は人魂派遣サービスに電話をしてみた。

 すると、電話に出た受付の女性は言った。

「どのような人魂がいいですか」

「どのような、とおっしゃいますと?」

「冷たい感じや温かい感じなど、人魂の生前の人柄によって光の具合が変わるんですよ」

「はぁ、じゃあ、瞑想をする時にお願いしたいので温かい感じでお願いします」

「かしこまりました」

 しばらくすると、人魂がふわぁ〜っと私の部屋にやってきた。

 暖色の温かい光の人魂だ。

 人魂がぺこりとおじぎをする。

 礼儀正しい。

 私もおじぎを返して、さっそく部屋の電気を消し、瞑想を始めてみた。

 最初はなんだか人魂の存在が気になってしまったが、環境づくりがよかったのか、だんだん深い瞑想に入っていった。

 それからいわゆる”ゾーン”に入り、無の状態になる。

 どれくらい時間が過ぎたのか分からないが、私が目を開けるとすぐ目の前に人魂の姿があった。

 頭がすっきりしている。

「おかげさまで、うまくいきました」

 私がそう言うと、人魂はぴょんと一回りして祝福してくれた。

 それから私は、何度か人魂を派遣してもらって瞑想をしてみた。

 だが、何度かやるうちに飽きてしまった。

 私は元来飽き性なのである。

 早紀に聞くと「私は続けてるよ〜」と言っていた。

 早紀はすごいなぁ。

 しばらくして。

 早紀が会社に来なくなった。

 一体どうしたのだろう。

 結局早紀はそのまま一度も会社に来ることなく、会社をやめてしまった。

 
 それから一年ほど経って。

 町中で早紀を見かけた。

「早紀!」

 私が声をかけると、早紀は不思議そうな顔をして「……あなた誰?」とつぶやいた。

「え? ほ、ほら、前に会社で一緒だった」

「あぁ、ごめんなさい。最近、なんだか物忘れが激しくて」

 そう言う早紀は、なんだか人が変わったようであった。

 まさか。

 私は嫌な予感がして、あの人魂派遣サービスに電話をしてみた。

 しかし、いくら待っても電話はつながらず、結局あのサービスはいつの間にかなくなっていたのであった。

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