香りのお便り

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 一人暮らしをしている友達の家で遊んでいると、ピンポーンと呼び鈴が鳴った。

 玄関を開けてから何かを受け取った友達は「やっと届いた!」と何やら歓声をあげた。

「何が届いたの?」

「これこれ」

 そう言って友達がダンボールを開ける。

 しかしそこには何も入っていなかった。

「何も入ってないじゃないか」

 僕がそう言うと、友達は僕を手で制してすぅっと鼻から息を吸い込んだ。

「あ〜これこれ」

 何やら満足げな友人に僕は聞いてみた。

「一体何をしてるんだ」

「これはね、香りのお便りさ」

「香りの……何だって?」

「実家の香りを届けてもらったんだよ。ほら、おまえも嗅いでみな」

 そう言われて僕は鼻から息を吸った。

 すると、どこか懐かしい香りを感じた。

「おぉ、確かになんか懐かしいかも!」

「最近始まったサービスでさ、色々な香りを取り寄せられるから、お前も使ってみれば」

 僕はさっそく母さんに連絡をして、自分の実家の匂いを取り寄せることにした。

 数日後、ダンボールが一つ届き、開けてみると中から実家の匂いがした。

「おぉ、すごい!」

 母さんにお礼の電話をすると、母さんは「業者の人がやってきてね、”集香をします”とかいって匂いを集めていったよ」と笑っていた。

 このサービスでは色々な香りが販売されていて、高級焼肉店が肉の焼ける香りを販売していたり、女の子が部屋の香りを販売していたりした。

 正直なことを言えば、僕はそのどちらもこっそり買ってみたのである。

 後日、友達に「あれ使ってるよ」と話をした。

「そうか。楽しんでもらえてよかったよ。実はあのサービス、おじさんが始めたサービスなんだ」

「おじさんって、探偵をやってるおじさん?」

「そう。色々な香りを嗅ぐ訓練をしたいなって思って、自分のためにサービスを作ったそうだよ」

「どういうこと?」

「探偵にとって鼻は大事なんだろ。なんたって、事件の匂いを嗅ぎ分ける必要があるからな」

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