売れ残りの天秤

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 私が店番をしていると、男の人が一人やってきた。

 男の人はぶらぶらと商品を見て回ったあと、天秤が置いているコーナーで足を止めた。

 じーっと天秤を眺めている男の人に、私は声をかけた。

「あ、その天秤、普通に使うんだったらやめておいたほうがいいと思います」

 私がそう言うと、男の人は不思議そうな顔をして言った。

「どういうことですか?」

「ちょっと変な天秤なんです。その天秤、純粋な物の重さだけではなくて、その物に込められた思いの重さも加味してしまう天秤なんです」

「へぇ! それは面白い。もらっていきます」

 男の人はそう言って天秤を買っていった。

 あんなもの、どう使うのだろう。

 数日後、あの男の人が笑顔でやってきた。

「いやぁ、先日はいいものを売っていただきまして」

「はぁ。あの、差し支えなければどんな使い方をしたのか教えていただけますか?」

「履歴書ですよ。私、こういうものでして」

 男の人が名刺を差し出す。

 そこにはある有名な会社の会社名が書いてあり、役職のところに「人事部 採用担当」と書かれていた。

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