喉ブルートゥース

ショートショート作品
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 コヤギ博士が、またおかしな発明をしたらしいので、私は丘の上にあるコヤギ博士の研究所にやってきた。

 コヤギ博士は私を見るなり興奮した様子で言った。

「これを見たまえ!」

 コヤギ博士は自分の喉を指差した。

 何やらスイッチがついている。

「押してみたまえ」

「はぁ……」

 私はコヤギ博士の喉についているスイッチを押した。

 すると、突然コヤギ博士が「チュンチュン!」とすずめのような鳴き声で鳴き始めた。

「えぇ、なんですかこれは!」

 コヤギ博士は自分で喉のスイッチを押すと言った。

「これは喉に貼り付ける、喉ブルートゥースだ。これを貼り付けると、ブルートゥースでつながっているものの声が出せるのだよ。さっき、すずめに同じものを貼り付けてみたんだ」

 コヤギ博士はもう一度スイッチを押して「チュンチュン!」と鳴いた。

「すごい発明ですね! その装置があればカナリアのような声も出せるんじゃないですか」

 私がそう言うと、コヤギ博士は満足そうに「チュン!」とうなずいた。

 翌朝。

 朝食を食べていると、ドンドンドン! と誰かが玄関を叩いた。

 出てみると、コヤギ博士が立っていた。

「どうしたんです?」

「チュンチュンチュン!」

「え?」

「チュンチュン!」

 何を言っているのかさっぱり分からないので、紙を渡すと、コヤギ博士はペンを走らせた。

『喉ブルートゥースが壊れた。スイッチが作動しなくなった。私が喉ブルートゥースをつけたすずめを探してくれ』

「えぇ!? 探してくれっていったって……」

「チュンチュン!」

「か、紙に書いてください!」

「チュウン!」

 コヤギ博士はもどかしそうにまた紙にペンを走らせた。

『ブルートゥースの電波はそれほど遠くまで届かないから、私の声を発しているすずめが近くにいるはずなんだ!』

「なるほど、分かりました。やってみます」

「チュチュン!」

 私は物置から虫取り網を取り出して、近所を捜索した。

 すずめと言ったって、たくさんいる。

 一体どのすずめがそうなのやら……。

 と、その時、「おーい! ここだー!」という博士の声が聞こえた。

 行ってみると、一羽のすずめが木にとまっている。

 私は虫取り網でなんとかすずめを捕獲した。

「ごめんな、ちょっとだけつき合ってくれ」

 それから私はコヤギ博士と一緒に研究所に向かった。

 すずめの喉からブルートゥースの装置を外し、離してやる。

「私の喉に貼り付けたものはちょっと外すのに時間がかかるので、明日外すことにするよ」

 コヤギ博士はそう言って、私に「ありがとう、助かったよ」とお礼を言った。

 翌日。

 コヤギ博士の研究所を訪ねてみると、げっそりとしたコヤギ博士が椅子の上でうなだれていた。

「どうしたんですか!?」

「いやね、喉のブルートゥースを外そうとしているのだが、何を間違ったか、中々取れなくなってしまってね。おまけに、変にいじったからなのか、なにかの拍子にラジオの電波を拾ってしまうようになって、一晩中、口からラジオの音が……」

 そう言ったコヤギ博士の口から「ポーン。朝の10時をお知らせします」と時報が鳴った。

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