骨壷先生

ショートショート作品
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 目を覚ますと、ベッドの上だった。

 あれ……何があったんだっけ。

 あぁ、そうだ。僕はバイクで事故を起こしたのだった。

 なんだろう、右足に違和感がある。

 感覚が……ない!?

 もしや……。

 僕は恐る恐る右足を見た。

 そこに右足が……あった。

 だが、なんだろう。

 妙にふにゃふにゃしている。

 お医者さんと母がやってきて僕の顔を覗き込んだ。

「あんた、大丈夫?」

「あぁ、母さん……」

 先生がにこりと笑いながら言った。

「複雑骨折をしていましたので……」

 まさか……。

「骨を修理しています」

「え?」

「この病院には農園がありましてね、そこに骨を埋めて修理するんですよ」

 
 面会時間が終わり、母が帰っていった後、またあの先生がやってきて「農園を見てみるかい?」と声をかけてくれた。

 僕は松葉杖をついて先生の後についていった。

 病院に大きな中庭があって、どうやらここが”農園”らしい。

 そこで骨を埋める作業をしていた。

「慣用句で、骨を埋める、なんて言うからね」

 先生はそう言ってから「はぁっ……!」と引きつけを起こした。

「だ、大丈夫ですか!?」

 僕は心配して先生の顔を覗き込んだが、どうやら先生は笑っているだけのようだ。

 
 消灯時間になったが、昼間ずっと寝ていたせいであまり眠くならなかった。

 僕は松葉杖を持って、そっと病室を抜け出した。

 あの大きな農園を見に行く。

 ここにたくさんの骨が埋まっているのだと思うと、なんだかちょっと不気味だった。

 と、その時、土の中から一体のガイコツが起き上がった。

 ガイコツが体を起こし、こちらに向かって走り出す。

「う、うわぁー!」

 僕は松葉杖をつきながら必死で逃げた。

 しかしガイコツの走る速度の方が速く、追いつかれてしまった。

 ガシッと肩を掴まれる。

「ひぃー!」

 僕はまた叫び声をあげた。

 すると、後ろからカタカタカタと音が聞こえた。

 恐る恐る振り向くと、ガイコツが顎をカタカタカタと動かしている。

 何かしゃべっているようだ。

 しかし何も聞こえない。

 ガイコツは、うっかり、というようなジェスチャーをしてから、体を折り曲げた。

 この動作、どこかで見たような……。

 ガイコツが廊下の向こうを指差した。

 そこには、あの先生の部屋があって、一瞬その部屋の中に、ペラペラの紙のようになった先生が見えた。

 ガイコツが、待ってて、というようなジェスチャーをして先生の部屋に走っていく。

 しばらくすると、部屋から先生が出てきた。

「やぁ、驚かせてしまってごめんね。私も患者さんたちと一緒に骨を埋めて、丈夫にしていたんだよ。骨は体の基礎だからね」

 そう言ってから先生は「はぁっ……!」と笑って、体を折り曲げた。

 退院の日がやってきた。

 先生は僕の右足の骨をチェックして「問題ないね」と笑った。

「ただ、複雑骨折だったから……」

 先生が深刻そうな顔をする。

「あの……なにか後遺症が残るのでしょうか?」

「いや。複雑骨折だったから……骨が折れたよ」

 先生がこちらをちらりと見る。

「……先生」

「なんだい?」

「先生もたまには骨を休めてくださいね」

 先生は「はぁっ……!」と笑った。

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