黒の燃料、というものがかつて世界には存在したらしい。
それは灯油のような性質を持つ可燃性の液体だったが、その燃料から上がる炎は、黒かった。
あるところに黒の燃料を売っているガソリンスタンドがあった。
そのガソリンスタンドでは普通のガソリンも販売していたが、黒の燃料も一部の人間が買っていった。
黒の燃料は様々な用途で使われていた。
例えば、夜空を見上げながら黒い焚き火をしたい、なんていうニーズもあった。
だかそれは、美しい使い方である。
黒の燃料は、不都合なものを燃やすことなどにも使われた。
それは主に裏の社会で。
だが、もう黒の燃料は存在しない。
黒の燃料を販売していたガソリンスタンドが、燃えてしまったのだ。
今ならありえないことだろうが、不慮の事故でガソリンに引火してしまったのである。
近隣の消防署に、妙な通報があった。
「闇が迫ってくる」
それは、ガソリンスタンドから上がる巨大な黒の炎を見た人間からの通報だった。
「闇が迫ってくる、熱い、熱い!」
そんな通報を受けた消防隊がやって来て、消火活動が行われたが、闇の炎のせいで作業が遅れた。
幸いなことにそのガソリンスタンドは、およそ人里離れた場所にあったので、被害は最小限に抑えられた。
けが人なども出なかった。
ただ一人、ガソリンスタンドのオーナーを除いては。
黒い炎に焼かれ、ガソリンスタンドの全ては真っ黒な炭になっていたが、そんな火災現場から、不釣り合いなほど真っ白なオーナーの骨が見つかったのだ。
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