私は無口な人間だと思われている。
しかし実際は違う。
違うはずなのだが、もう自分でもよく分からない。
私には昔からおかしな能力があった。
自分が言葉を発すると、その言葉に反響した人の考え方が分かるのだ。
例えば「おはよう」と私が挨拶をしたとする。
すると、その「おはよう」に対して人がどう思っているのかが分かるのだ。
普段は人の考えなんて読めないのに、言葉を発した時にだけその反応が分かるのだ。
自分の発した声や音などで物の位置を知る「反響定位」「エコロケーション」という能力がコウモリにはあるそうだが、そのようなものなのだろうか。
だから私は自然と無口になる。
人の考えなんて知りたくないからだ。
仕事も、なるべく人と話さなくてすむような仕事を選んでいる。
そんな私に恋人なんてできるはずがないとずっと思ってきたが、今ではそんな心配は杞憂だったと思っている。
目の前の彼の考えていることは私には分からない。
私が何かを言うと彼は言葉を返してくれるが、その思考は読めない。
それが心地よい。
そんな彼と一年ほど一緒に過ごしたある日、私は、自分の言葉に対して彼から何かが返ってきているのを感じた。
それは……0と1の数字だった。
これはおそらく二進法と呼ばれるものだろう。
彼はアンドロイドだから、そうやって物を考えているのかもしれない。
解読できれば彼が何を考えているのか分かるだろう。
しかしそうしない方が幸せなのは分かっている。
「おはよう」
と彼に言うと「おはよう」と返事が返ってきた。
その後に0と1の羅列が降ってくるが、私は知らんふりをしてベッドから起き上がった。
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