精進屋敷

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「ここです」

 係員さんは屋敷の方を手で指し示しながら言った。

 ここは通称”精進屋敷”と呼ばれる場所である。

 どうしても痩せたいと思っている僕は、様々なツテを頼ってここを紹介してもらったのだ。

「屋敷に入ったら、試験をクリアするまでは出てこられませんので」

 係員さんはそう言って屋敷の玄関の扉を閉めた。

 一応扉に手をかけてみるが、びくともしない。

 聞いていた通りだ。

 この屋敷にあるものは、全てが”重い”。

 家具、食器、寝具にいたるまで、すべてが重い。

 とりわけこの扉はものすごく重いので、屋敷の中の生活で筋力を鍛えるまでは外に出られない。

 食事は三食作ってもらえるが、これを食べるのも一苦労なのだ。

 なにしろ箸や茶碗が重いのである。

 さらには廊下が可動式になっていて、ちょっとトイレに行きたい時も、動く廊下に逆らってダッシュで駆け抜けなくてはならない。

 そんな地獄のような屋敷で日々を過ごすことで強制的に痩せるのだ。

 そして玄関の扉を開けることができたら、晴れてこの屋敷生活から解放されるというわけだ。

 
 三ヶ月後、僕は無事屋敷から脱出することができた。

 体もすっかり仕上がっている。

 その時にはもう、痩せたいという次元ではなく、もっともっと体を鍛えたいという思考になっていた。

 そこで僕は係員さんに「もっと鍛えられる場所はないですか」と聞いてみた。

 その結果連れてきてもらったのがここである。

 なるほど、ここにあるものは全てものすごく重い。

 さらに言えば、僕の体まで重い。

 この惑星の重力は、どうやら地球の二倍はあるようだ……。

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