「納骨の前にこちらで遺骨の一部を預からせていただくだけでいいんです。そうすれば犯人が分かります」
僕が遺族にそう説明すると、斎川さんは「ちょっと待ってください、若林刑事」と遮った。
「私は骨の言葉を読み解くだけです。ですから、ご遺体が犯人の名前を伝えたいと思ってなければ犯人は分かりません」
斎川さんの説明に、ご遺族は押し黙り、何も答えなかった。
斎川さんは『骨読み』と呼ばれている。
なんでも元々は考古学者で、恐竜の骨なんかを見ていたそうなのだが、その能力を買われて今ではこうして警察の捜査に協力をしているらしい。
斎川さんは、骨に刻まれた「骨字」を読むことができ、骨になった遺体が伝えたかったメッセージを読み取ることができる。
だから、殺人事件の被害者の骨から犯人を当てることができるというわけだ。
しかしどうやらいつも犯人が分かるというわけでもなさそうだ。
結局、遺族の了承を得て被害者の骨の一部を預かることができた。
そして斎川さんによって骨読みが行われ、その結果浮上した容疑者を徹底的に調べることで事件は解決した。
「今回も助かりました」
刑事部長の言葉に、斎川さんは何も答えずに一礼だけをしてその場を後にした。
斎川さんが現れると捜査一課のフロアは少しだけ静かになる。
みんな斎川さんを少し遠巻きにしているような気がする。
僕は廊下に出て斎川さんの背中に声をかけた。
「僕にも骨読みを教えてくださいませんか」
斎川さんはこちらを振り向いて言った。
「若林刑事は、焼き魚はお好きですか?」
質問の意図が分からないが、僕は「はい」と答えた。
「そうですか。フライドチキンは食べますか?」
「えぇ、まぁたまには」
「じゃあやめておいた方がいい」
そう言って斎川さんはくるりと振り向いて歩き出した。
すぐにはどういう意味なのか分からなかったが、やがて合点がいった。
斎川さんはどんな生き物の骨からもそのメッセージを読み取れるのだ。
魚やチキンの骨にはどんな文字が刻まれているのだろう。
回答の意味に気づいて僕が顔を上げると、もうそこに斎川さんの姿はなかった。
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