私のおばあちゃんは幽霊が”分かる”人でした。
見えるのではなく、分かる。
おばあちゃんは幽霊の匂いをかぐことのできる鼻を持っていたのです。
「幽霊さんが来たね」
おばあちゃんはいつもそう言って鼻をちょっとひくりとさせました。
おばあちゃんによると幽霊さんが来ると雨と同じ匂いがするそうです。
「動物の霊は草原の匂い。人間の霊は雨の匂い」
おばあちゃんはよくそう言っていました。
私はそんなおばあちゃんが大好きでした。
「私も幽霊さんの匂いが分かるようになるかなぁ」
ある日おばあちゃんにそう聞くと、おばあちゃんは「練習すればなるかもねぇ」と笑っていました。
だから私は一生懸命練習しました。
おばあちゃんが天国に旅立ってからも、私は幽霊さんの匂いをかぐ練習を続けました。
だけど幽霊さんの匂いが分かるようにはなりませんでした。
あれはきっと才能なのでしょう。
でも練習のかいあって、私は雨の匂いが分かるようになりました。
これから雨が降るぞという時にふわりと香るあの匂い。
「雨が降るね」
私が匂いをかいでそう言うと必ず雨が降るので、家族や友人には重宝がられたものです。
そんな便利な能力を授かった私でしたが、それを今日ばかりは疎ましく思います。
今日は私にとって晴れの日。
お天気が良ければ親族と一緒に参道を歩く「参進の儀」を行うことができたはずでした。
しかし天気予報は雨。
私の鼻も雨の匂いをかぎとっています。
白無垢に身を包んだ私は親族紹介を終えて参道に続く道に向かいました。
雨が降っていた場合は屋根付きの脇道から拝殿に向かうと事前に説明を受けておりましたで、そちらに向かうのだろうと思っていた私に式場の係員さんがそっと耳打ちをしました。
「晴れましたね」
「え?」
私が顔を上げますと、そこには真っ青な空が広がっていました。
「天気予報はハズレだね」
紋付袴に身を包んだ彼がそう微笑みます。
私はこっそり鼻をひくりとさせて匂いをかぎました。
雨の匂い。
「参りましょう」
係員さんに促されて、私は歩き始めました。
おばあちゃんに見てもらいたかった晴れ姿。
見てもらえてよかった。
私はそんなことを考えながら、雨の匂いのする青空の参道を、ゆっくり、ゆっくりと歩いたのでした。
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