友達の彩乃に誘われて、心霊スポットに行くことになった。
幽霊が苦手な私は本当に行くのが嫌だった。
幽霊が出たらどうしよう。
魔除けのお守りなんかを調べていると「幽霊よけスプレー」というものがあることを知った。
身近にあるもので作れるらしい。
私はさっそく幽霊よけスプレーを作り始めた。
彩乃が親戚にもらったという軽自動車に乗って、私たちは心霊スポットにやってきた。
そこには薄暗いトンネルがあった。
あぁ、もうダメ。見るからに出そうじゃん……。
私は作ってきた幽霊よけスプレーを体中に吹きかけた。
「なにそれ、虫よけ? あたしにもー」
「違うんだけど……まぁいいか」
彩乃がTシャツから伸びる腕を差し出したので、腕だけと言わず全身に吹きかけてやった。
私は彩乃と一緒にトンネルの中に入った。
トンネルの中は音が奇妙な反響をしていて、いかにも何かでそうな雰囲気だった。
トンネルの向こうまで行って、戻ってくる。
幸い、何も出なかった。
良かった……。
「何もいなかったね」
私がそう話しかけると、彩乃はただ黙ってうつむいていた。
「彩乃?」
「……いいから、早く車戻ろ」
彩乃に腕を引っ張られて車に戻る。
車に乗り込むなり、彩乃が言った。
「あんた、本当に何も見なかった?」
「え?」
「トンネルの先で何も見なかった?」
「ちょ……ちょっと、やめてよー!」
「いや、見てないならいいんだけど」
彩乃はそう言って無言で車を発進させた。
彩乃が家まで送ってくれた。
すっかり真夜中になってしまった。
結局、彩乃はずっと何も言わなかった。
なんだか怖くなった私は、玄関にもスプレーを吹き付けてから部屋に入った。
今日ぐらい実家に帰ればよかったかな、なんて思いながら電気をつける。
パソコンがまだつきっぱなしになっていた。
あぁ、昨日スプレーを作った時から開きっぱなしだったのか、と画面を閉じようとして、私は信じられないものを画面の中に見た。
え……?
嘘でしょ。
きっと、見間違いだ。
しかし何度見てもそこには「幽霊よせスプレー」と書いてある。
そんなはずない。
きっとこれは幻覚なんだ。
そう、今聞こえている玄関の呼び鈴の音も、窓から覗いている誰かも、なにもかも……。
コメント