ある伝説についての書物を読んだ。
それは「月こだまの伝説」というものだった。
昔、あるところにある姫がいて、その姫は月が好きで、いつも月を眺めながら平和を願っていた。
その願いは月に聞き入れられ、その姫のいる国はいつも平和だったという。
そんな伝説を読んだ私は、自分も月にお願い事をしてみよう、と犬のタロウを連れて散歩に出かけた。
ちょうど今日は満月だ。
私は月を見上げながら「彼氏ができますように」と願った。
しかし彼氏は中々できなかった。
叶わないなぁなんて思いながら書物の続きを読んだ私は、そりゃ叶わないわけだ、と思った。
「月こだまの伝説」の姫は病に臥せった時に悪者にさらわれてしまったらしい。
悪者は姫に言った。
「俺たちに金銀財宝をよこせ、と月に願え。言うことをきかないと、国中の者に不幸が訪れるぞ」
そう脅された姫は、悪者の願いについて懸命に祈ったが、その願いが月に届くことはなかった。
結局姫は役に立たないと道端に打ち捨てられた。
そして姫が国に帰り着き、再び月に願うようになると、また平和が戻ったという。
つまり、月は姫の透き通った本当の願いだけを聞き入れていたということなのだ。
ある日、部屋でごろごろしていると、ピンポーンと呼び鈴が鳴った。
玄関から「わー!」とお母さんの悲鳴が聞こえた。
一体何事かと私が玄関に向かうと、そこに大量のダンボールが置かれていた。
「な、なにこれ!?」
「どうやらテレビの懸賞が当たったらしいんだよ……!」
そのダンボールの山は、ちょっと高級な犬用の餌だった。
まさか、と思い私が庭のタロウを見ると、タロウは透き通った純粋な目でこちらを見て、ワン! と鳴いた。
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