師範の話

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 友達の莉子と一緒に柔道の道場に通うことになった。

 運動不足だし、護身術にもなるかも、なんて軽い気持ちで始めたのだが、これが中々どうして、私は柔道にすっかりハマってしまった。

 一ヶ月だけ通うつもりだったけど、三ヶ月コースに変更した。

 そして三ヶ月コース最後の日、私と莉子は師範の話を正座しながら聞いた。

「皆さんにお教えしたのは動きとしては柔道の基礎です。しかし、これは格闘技全てに通ずることですが、柔道で大切なのは心です。ここを去ってもここで学んだ心の強さを忘れないでください」

 師範のそんな話に、なんだかじーんとしてしまった。

 ちらりと横を見ると、莉子も神妙な顔で話を聞いている。

 師範の話が終わると、私たちは更衣室で着替えた。

「なんか、しびれたね」

 ぼそりと莉子が言う。

「うん。私、ちょっと久しぶりに感動しちゃった。何かを極めた人はやっぱりすごいね」

 私がそう言うと、莉子がぽかんとしたような顔でこちらを見た。

 そして申し訳なさそうな顔をして言った。

「ごめん。しびれたのは……足なんだ」

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